21_21 DESIGN SIGHT『AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展』を見た

21_21 DESIGN SIGHT | 企画展「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」 | 開催概要 http://www.2121designsight.jp/program/audio_architecture/


見てきた。平日の開館直後だったので人がまばらで堪能できた。真夏の朝から暗い会場に入ってごく短い刺激的な映像作品を立て続けに何本も見続けるという体験は僕からするとアニメーション映画祭(具体的には広島国際アニメーションフェスティバル)に参加したときのそれに近くちょっと懐かしい感じがあり、そう思ってみると参加作家も商業すぎずアートすぎずキャラクター性がありながらも新鮮な「動き」を探求する人たちが集められていてこれはアニメーション映画祭だったのでは? という気がしてきた。

映像作品はほんとにどれもよかったけど(また観に行きたい)、学生時代からその成長を見てきている水尻自子さんの新作を見られたのはうれしかったな。あの風船に風で飛んだティッシュ(?)が引っかかるカットにははっとした。


スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした?』を読んだ

誰が音楽をタダにした? | 種類,ハヤカワ文庫NF | ハヤカワ・オンライン


邦題は「誰が」というタイトルになっているけど原題は「How music got free」であって犯人がいたとかそういった話ではない。音楽業界の命運を左右する技術が、楽曲制作やそのマネジメントといった制作者サイドの技術から、流通・入手コストを可能な限りゼロに近づけるための消費者サイドの技術へといつのまにか移り変わっていた90〜2000年代に不可避的に(だと思う)起きたことを克明に記録したたいへんスリリングなノンフィクション。ものすごく面白かった。

著者の冷静でありつつ絶妙に毒っ気を混ぜた文体も素敵だけど、3人の主人公(?)たちの舞台立てが完璧すぎる。一人は業界の政治に敗れ正式採用されなかった自分たちの優れた音声圧縮フォーマットの有用性を世に証明せんとする実直な研究者(mp3の開発者ブランデンブルグ)。もう一人は音楽業界の帝王として君臨しながらも、音楽のデジタル化とネット流通の発展には傍観者でしかなかったレコード会社CEO(ユニバーサルのダグ・モリス)、そして最後の一人、新しい音楽の中心になったダウンロード・サブカルチャーを代表するのは、「現実世界」ではバイト上がりのCD工場従業員を勤勉に続けつつ、ひたすら発売前のCDを持ち出して「シーン」にリークし続けたふつうの若者(RNAのグローバー)。この本来まったく交わらない三者の立場の隔たりにこそ90年代に音楽業界で起きたことの壮大さが示されているように思った。

そしてこのタイミングでこの本を読むともちろん漫画村問題とか(日本の)電子出版業界のこととかをもやもやと考えてしまう。音楽と較べると「本」はテキストと画像という意味でのコンテンツとしてはWeb(とWeb広告によるマネタイズ)が普及した時点で技術的にはすでに決着がついたものだとも言えるし、メディア体験としての「本」を超える利便性を消費者が手にしているかと考えるとまだ技術的転換点に達していないのだとも考えられる。「出版業界は音楽業界の失敗に学んでない」という決まり文句は事実だとは思うけど(この本にも「出版はデジタル流通が音楽よりも失敗している唯一の業界」というフレーズが出てくる)、結局のところ「音楽がタダになった」後の視点からの軽々しい言葉のように感じて個人的にはちょっとなーと思う。と同時に、Kindle UnlimitedもdマガジンもradikoもTVerも当たり前になった2018年にいまだマンガ雑誌の横断サブスクリプションサービスが存在しないのはなんぼなんでも遅すぎる終了〜と思う。いま言いたいのはそのくらいかな。


haruno『filia』


soundcloudで知ってフォローしてたharunoさんのアルバム『filia』が出てたのでbandcampで買った。ボーカロイドの楽曲っていまだに乗っかっていけないなーと思わされるところがあるけど、harunoさんの曲は居心地がいい。この暗い作品世界をもって居心地いいとかいうのもどうかという気もするけど。アルバムで一番好きなのは「私怨」かな(このタイトルもすごい)。アルバムとしての収まりも好み(1曲目『in between』の「アルバムの1曲目感」とか最高)。

ちなみにこのへんのリミックス/カバーから知った。UTAUってのも知らなかったんだけどヴォイスサンプルからボーカロイド的なボーカル合成ができるフリーソフトで、これが「韓国人による日本語楽曲カバー」の文脈で使われてるってことなのかな?


『ele-king vol.21』「Our Top 30 Albums 2017」のSpotifyプレイリスト

ele-king vol.21 | ele-king


ずいぶん前にちょっと使って離れていたSpotifyが「プレミアムが100円で三ヶ月」と言ってきたので態度を変えて加入していろいろ聴いている。あのわざといらっとさせるように作ってあるCMもたいがいだけど、やっぱ順番に聴いていけるのがうれしい。

せっかくなのでちょうど出た『ele-king vol.21』を買ってきてベストアルバムのプレイリストをつくって順番に聴いた。Spotifyに載ってないColleen 『A Frame My Love, A Frequency』(4位)、岡田拓郎 『ノスタルジア』(19位)、The Caretaker 『Everywhere At The End Of The Time Stages 1-3』(23位)は未収録。

どれよかったけど、DYGL、Chack Johnson、Domenico Lancellottiを知れたのがうれしかった。


V.A.『Diggin In The Carts - A Collection Of Pioneering Japanese Video Game Music』

出るの忘れててちと遅れて購入。hallyさんのライナーついてるならCDで買おうとタワーレコードで探したところ、ゲームミュージックコーナーにはなくてちょっと残念だった(クラブ・テクノコーナーにあった)。

リリース情報で曲目を見た段階で変わったセレクションだなーと思っていて、実際聞いてみても最初は結構「?」という感じだったんだけど、しばらく聴いていたらなんとなく聴きどころがわかってきた。おそらく「メロディ、リズム主体でなく短いシーケンスの繰り返しからなる」かつ「音源チップのサウンドの特徴(魅力)が出ている」トラックが選ばれた結果、有名な、あるいはポップで勢いのあるステージ1とかの曲はなく、あまり有名でないゲームのそれもステージ5とか中盤ステージのトリップ感のある曲ばかりが集められたゲームミュージックコンピレーションになったというのがこのCDなんだと思う。激シブすぎる。

でも「短いシーケンスの繰り返しからなる」「音源チップのサウンドの特徴(魅力)が出ている」という観点で聞き込むとたしかになかなかいい(収録時間の問題なのかループが少ないのが残念)。『源平討魔伝 BIGモード』とかは有名な名曲だけどグルーヴィーな曲に聞こえて新鮮だし、『ワルキューレの伝説』のエレキマン王の曲なんかはなぜかPCエンジン版のアレンジで収録されてるんだけど、このCDの並びだとアブストラクトなチップチューンに聞こえる。3曲収録されているゴブリンサウンド(知らなかったけどメサイヤのサウンドチームの名前なのかな)の曲もいい。あとはまさに「ディギン・イン・ザ・カーツ」で発掘された、リードトラック『THE 麻雀・闘牌伝(スティーヴ・ライヒばりのミニマルミュージック)』をはじめとする日の当たらないゲームの知られざる名曲たちも最高(セレクションの文脈でいうと複数収録されている斉藤博人さんの曲がそこだけ「いわゆるゲームミュージック的な曲」なのでちょっと不思議ではあった)。

国内盤に寄せられたhallyのライナーはこのアルバムにふさわしいもの(批評的にセレクションされた初めてのゲームミュージックのアルバム、という)ではあったけど、全曲徹底解説的なものを勝手に期待してたのでちょっと拍子抜けだった。ちなみにOTOTOYだとデジタルで変えてこのライナーもpdfでついてくるのに後から気づいた。


田中治久(hally)『チップチューンのすべてーーゲーム機から生まれた新しい音楽』を読んだ

チップチューンのすべて All About Chiptuneーーゲーム機から生まれた新しい音楽 | アイデア - 世界のデザイン誌


素晴らしい本だった。『現代ゲーム全史』を読んだとき、コンピュータと音の関わりやゲーム音楽についての言及が妙に少ないなと思ってたんだけど、後にこの本が控えているのがわかっていたからなのか…と思ってしまった(違うかな?)。

コンピュータから再生される「電子音」の誕生と、その発展としての音源チップ、つまり「楽器」ではなく「コンピュータの一部としての音源」が、どのように発展し、どういう形で人々の耳に触れ、そして誰がそこに、のちに「チップチューン」と呼ばれることになる固有の表現を見いだしていったのか。それを膨大な資料からの丹念な研究によって明らかにする、コンピュータ音楽史研究家としてのhallyさんの集大成のような本。これを2017年に日本語で読めるのを感謝したいとしか言いようがない。

僕はこの本の区切りでいうと、国内の(商業)ゲーム音楽隆盛期から国内パソコンでのチップチューン的な価値観の断絶期(第2章 チップチューンの成立 II 国内編)で知識が止まっていたので(恥ずかしながらhallyさんの活動は知りながらもVORCで情報を得ることをしていなかった)、SIDチップとロブ・ハバードの仕事を中心とした海外でのチップ音楽の価値観やトラッカー音楽とデモシーンを通じたチップチューンの胎動期についてはとても多くのことが知れたし、その散り散りに存在したコミュニティーが、他ならぬインターネットとハードウェア・エミュレーションという真にコンピュータ的な技術によってその障壁が崩され、「チップチューン」というひとつのシーンが大きく立ち上がったのだとする記述は、hallyさんの筆の熱もありとても感動的に読んだ。

インターネットとサウンド・エミュレーションの普及がある程度進んだ段階で、人々は気付き始める。言語が違っても、使用機種が違っても、音楽の趣味は共有できるかもしれないと。この種の音楽が好きな人々は、世界中にいるかもしれないと。PSGやSIDといった特定のデバイス名だけでは言い表せない、音源チップ「全体」を包含する、より大きな世界があるかもしれないと。隔てられた世界が繋がり、ひとつのシーンを形成するに至ったとき、今日的な意味での「チップチューン」、すなわちトラッカー音楽に限定されない、音源チップの単純波形に由来するすべてのサウンドを包含する「チップチューン」の時代が始まる。

『チップチューンのすべて』 - 第3章 IV “モダン・チップチューン” 前書きより

注釈に資料URLがたくさんあって、一部歴史的音源の視聴リンクなんかもあるのでぜひどこかでクリックしたいと思いリンク集を探したんだけどまだ作られていないようだったので、ちくちく入力して勝手リンク集をつくった。注釈のほかディスクガイド・アーティストのアルバム情報ないしbandcampへのリンクや(リンク先が雑なのであとで修正したい)、原著中で代表的に扱われているゲームや楽曲、デモが現時点で見られるyoutubeリンクなんかもざっくり入れてあるのでこれから読まれるかたは傍らでリンクを開いたりするとよいんではないかと。



下半期にSoundcloudで聴いた曲から8曲選んで調べる(インスト編)

ボーカル編の続き。


下半期にSoundcloudで聴いた曲から8曲選んで調べる(ボーカル編)

soundcloudで聴いてlikeしてた曲から8曲選んであらためてこれって誰のどういう曲なのってのを調べた。上半期のはこれ


かえる目『切符』

切符
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かえる目
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先日のかえるさんワンマンショーで先行購入(1日だけだが)したかえる目『切符』を聴いてる。素晴らしいのはあたりまえなのだが、例によって伝えにくいよさでもある。まずはアルバム収録曲名を見ていただこう。

  1. ラーメン日和
  2. ドローン音頭
  3. オリンピック
  4. 隣人
  5. くまとジャケット
  6. 手鞠歌
  7. よしおくん
  8. Without You
  9. 異常気象
  10. 老スター
  11. 城はキャッスル
  12. 三人姉妹
  13. 希望の火
  14. 終点まで一駅

『ドローン音頭』気になるでしょ? 「ドローン」という言葉に日本人ならだれでもなぜか刺激される「和ごころ」を音頭としてとらえた名曲でぜひ聴いてほしいわけだが、じゃあ聴こうとCDをプレイするとまず聴こえてくるのは1曲めの『ラーメン日和』で、これがまたとんでもない名曲で、『ドローン音頭』にたどりつく前に泣いてしまうわけ。

『ラーメン日和』がいいのは、歌がうたわれるとき、まさにそのとき、ラーメンがすすられ、打ち明け話がはじまり、そしてラーメンがのびていくように感じられることだと思う。「ラーメンがのびてく」という、進行形の美しさ。「歌が走り出す」という比喩があるが、「歌のラーメンが伸びていく」のがこの歌だと言えるだろう。

もう一曲あげるなら『手鞠歌』かな。先日のライブで弾き語りバージョンも聞けたこの曲は、いわゆる「あんたがたどこさ」をルンバ調(でいいのかな?)でカバーしてるわけだけど、この不穏さはなんなの! 「あの歌は変なんですよ、会話してるはずなんだけど、途中で片方が突然ソロで歌い始めるの」とライブのときにかえるさんが話していたけど、その突然事に及ぶ感じ、そしてそれが繰り返す感じ。かえるさんが低速録音したボーカルのピッチを上げた『帰って来たヨッパライ』方式で収録されているのもふくめ、なんというか、昭和の犯罪の匂いがする。こんな音楽はほかで聴けない感じがとてもする。