セバスチャン・ローデンバック『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』を見た

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』


ユーロスペースで。もっとスタイルで押す感じの作品を想像していて、物語を丹念に追う映画的な作品だったのに驚いた(公式サイトの片渕監督の推薦文の通り)。淡々としていながらも退屈するところもない見事な作品。

アニメーションとしても見たことがない仕上がりで、こういう筆タッチのラフな絵を動かすとなるとフェードでつないだ紙芝居的なものか逆に非常になめらかに動かすかのどちらかのものになりがちだったと思うんだけど、この作品だと印象としては「動き始めると線が消える」というような不思議な感覚があった。『この世界の片隅に』や『かぐや姫の物語』との相似性は言うまでもないけど、フレデリック・パック『木を植えた男』もなんとなく想起した。あと筆タッチからの単純な連想だけどこのスタイルで『大日本天狗党絵詞』とかアニメ化してほしいな。

大人のためのグリム童話 手をなくした少女



上田慎一郎『カメラを止めるな!』を観た

映画『カメラを止めるな!』公式サイト


評判を聞いて見に行ったんだけど、評判通りすばらしくおもしろかった!

耳に入ってくる「超低予算だけどワンアイデアでヌケの良い作品」という評判にわれわれがイメージするものをひとまず及第点の形で提示して、それをまさにヌケの良い形で裏返して、さらにそれにしっかり熱狂してしまうという構造そのものもずっぽり抜いて見せてくれるという、僕はいわゆるネバネバ耳垢タイプの人間なので味わったことないんだけど、耳の穴の形がわかるようなでっかい耳垢が取れたときの快感というのはこういう感じなんじゃないかと思うような映画だった。


tampen.jp『アニメーションの<いま>を知る――「キャラクター」という宇宙』を観た

tampen.jp主催の「キャラクター」をテーマにした上映会が東京・渋谷で開催 | tampen.jp


上映作品が面白そうだったので(あと上映会場に馴染みがあるので)観に行ってみた。

最初にtampen.jp主宰の田中さん(だったかな)からこの上映会の趣旨についての解説があったんだけど、その話が「村上隆以降ポップアートとしてのキャラクター表現が一般化した結果、アニメーションの世界でもそうした表現が用いられるようになった」のだというところから始まったのがなかなかおもしろいなと思ったんだけど、もともと村上隆がアートの文脈に持ち込んだ日本のオタク的表現の多くはアニメーションからの引用なので、アニメの表現が美術を介してアニメに再導入されているというか、オーバーダビングみたいなことになってるんだよなと思った。少なからぬ作品に幽霊感というか、不穏なものを感じたけどオーバーダブ感と関係しているのかもしれない。

よかった作品を一つあげるなら前田結歌『正太郎』だったかな。グラフィックツールによるエフェクトがツールのインターフェイスも含めてあからさまに作品に取り入れられているのが新鮮で、アフタートークではポストインターネット的と言及されていたけど、アニメーションとしてはオイルペインティングのような効果にも見えるなーと思った。


デイヴ・マッカリー『ブリグズビー・ベア』を観た

映画『ブリグズビー・ベア』公式サイト


観てきた。こういう映画かー! これは泣くしかない。フィクションの世界がフィクションの力そのものによって救いがおとずれるタイプの作品(映画の中で映画を撮る映画)のなかでもかなり恣意的なシナリオなので、下手をするとすごいしらける作品になる可能性もあったはずだけど、すべての瞬間が愛おしい奇跡のような映画になってた。

80年代ポップカルチャーオマージュの作品でありながら、オタク的な固有名への言及や目配せが(僕が目につくところでは)ほとんどないという潔さのなか、呪縛の象徴である主人公の誘拐犯役にマーク・ハミルを起用して映画史とポップカルチャー史に接続するという鮮やかさにもしびれた。


森達也『A』『A2』を観た

ずっと見逃していたんだけど、奥さんが借りてきてたのを観た。やっぱり死刑執行されたタイミングだからか『A』はすべて貸出中だったとかで『A2』を先に観て、なんかわりとほのぼのしてるなー(上祐出所後の事務所に右翼団体がカチコミに来るとこはちょっとピリッとするけど)と思ったんだけど、あとで借りられた『A』は全然雰囲気が違った。『A』は96年ごろからのドキュメントだからそりゃそうだよね。

ただまあ『A2』の雰囲気のほうが日本のドキュメンタリーという感じがあって嫌いじゃなかったな。


是枝裕和『誰も知らない』を観た

誰も知らない | 映画 | WOWOWオンライン


WOWOWで録画してあったやつ。観たことないけどと思いつつなんとなく気分が向かなかったけど、この流れでようやく観た。評判どおりこれは名作。持ち味を引き出されている子役もすごいけど母親役のYOUのアトホーム感が(とそのまま帰ってこない感が)すごかった。でも後半の展開はちょっとファンタジックすぎかなーと『フロリダ・プロジェクト』との比較もあって思った。

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ショーン・ベイカー『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を観た

映画「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」公式サイト 2018年5/12公開


映画の日に。結構なロングランだと思うけどまだ(映画の日とはいえ)けっこう人が入っていた。

まさに夏休み映画というか、永遠に続くような暑い夏にうろうろする子供の時間の感覚がとても自然に描かれていて好ましい。と同時に「フロリダ・プロジェクト」こと夢の国の隣のネオンパープル色の安モーテルでぎりぎりのバランスで保たれていたその平穏が、どうにもならない貧困という現実により無残に終わる様子を映画の2時間を使ってものすごく丹念に描く恐ろしい映画でもあった。僕はどっちかというと後者のほうにチューニングしてしまい胸がつぶれる思いだった。


是枝裕和『万引き家族』を観た

是枝裕和監督 最新作『万引き家族』公式サイト


カンヌの受賞クレジットのある映画を久しぶりに観た気がした。おもしろかったけど、是枝さんの近作だと『海よりもまだ深く』が印象深くてそれは更新されなかった感じ。といいつつ『海よりもまだ深く』1回しか観てないのになんでそんな刺さってるのか改めて観てみたい。今作は樹木希林×安藤サクラのツーショット(の達人同士の手合わせ感)に尽きるかな。


ウェス・アンダーソン『犬ヶ島』を観た

映画『犬ヶ島』 公式サイト


ウェス・アンダーソンの映画はあんまり得意でないというかもっと好きな人に譲りたいと思ってしまう感じだけど、今作はウェス・アンダーソンが日本(のデザイン)を題材にするとこうなるというところをリアルタイムに観られてよかった。日本語を扱ったグラフィックデザインとしてここまで濃さを感じるものを久々に見たんだけど、それでいてこれまで見知ってきたものとは何かが決定的に異なっていることも感じて冷や汗が止まらないみたいな。異星人にキャトルミューティレーションされるとこういう感覚になるのではないかと思った。