渡邉泉『いのちと重金属』を読んだ

いのちと重金属: 人と地球の長い物語 (ちくまプリマー新書)
渡邉 泉
筑摩書房
売り上げランキング: 283,049

去年『菅俊一×山本晃士ロバート×水野祐×内沼晋太郎×後藤知佳「『まなざし』のまなざし」 』のイベントを見にB&Bに行ったときに店内で見つけて買った本。ちょうどそのときたまたま日本の公害事件のWikipedia記事をいろいろ読んでいたのでその興味と連動して買ったんだった。「いのちと重金属」ってタイトルのインパクトもあったな。

本の内容は平易な語り口で専門的な内容をやさしく伝えるちくまプリマー文庫っぽい内容でこういう本は好きだ。宇宙の誕生から生命の必須元素にいたる重金属の来歴と、重金属の危険な力を利用した産業の発達が呼んだ宿命のような公害の歴史とが解説される。公害事件は、社会や産業がみずからの幸福を求めるための無邪気な活動のダークサイドとして起きるものであり、加害者となる企業や行政を含む現代の利益を教授する人々がそれを見て見ぬふりをしたい、なかったことにしたいという意識がはたらくのであり、だからこそその歴史を忘れないよう努力する必要があるという。


平松るい『かど松 2015 特集 ひつじ』を読んだ

平松るいさんというのは女子美の学生さんで、modern fartでの細馬宏通さんの連載「うたのしくみ」の巻頭イラストや単行本の表紙イラスト、二階堂和美「とつとつアイラヴユー」MV(アニメーションVer.)などを手がけてらっしゃるイラストレーターさん。とつとつアイラヴユーアニメーションVer.は気合入った仕事で未見でしたらぜひどうぞ(これアニメじゃないVer.も観るとすばらしさがよくわかるんだけど、いまだにじみ 【デラックス・エディション】買わないと観れないっぽい)。

で、その平松さんがこの新春にお年賀がわりの自主制作雑誌「かど松」というのを作ったので希望者に配布しますよとtwitterでツイートされていたので所望したところ、2月になっても届かないので変だな―と思いつつ、これはきっと平松さん忘れているだろうから今年の年末あたりに届いてなかったよと問い詰めてやろうとか意地の悪いことを考えていたらなんのことはない家族が受け取ったものが荷物の山に紛れ気づいていなかっただけだった。

それでようやく「かど松」を読んだのだけど、これがすごいよいもので大変ありがたい気分になった。もう2月も中旬だけど正月のあらたまった気分にもどされたかんじ。なんでかとても気持ちのよい雑誌になってました。

そして収録原稿のなかでも白眉とされる伊藤ガビン渾身のなんの役にも立たないテキスト「おモチ、お正月」が素晴らしい。媒体上たぶん読んでるひとがそうとう少なそうなので、ここに少しクリップしておきます。

かど松を定期購読なさっているみなさん、はじめまして。神奈川県で小さな食堂を営んでいる伊藤と申します。ウソですが。
むかしは東京で編集の仕事などをちょこまかしていたのですが、いまは出身地である神奈川県の海沿いに根をおろし、ちいさなちいさな食堂をはじめました。うそですけど。
うちの食堂は、料理をする私がどこか名のある料理店で修行したわけでもないですし、特別な仕掛けも、眼を見張るような眺望も、なんにもないんですよね。でも、魚を見る目だけは、なぜか子供の頃からありましてね。魚を見ると、それがすごくおいしい一匹かどうか、なぜだかわかる。ド素人の僕だけど、なぜかそこだけは自信がある。だから刺身定食を、うちの主力商品にしているんですよね。って自分の魚を見る目に自信持ちすぎですかな。うそなんですけども。
えーと。うそばっかりかいててもしょうがない。せっかく新しい年になったんだから、ほんとのことを、ほんとのことだけを、正直に書いていきたい。ほんというと、僕の店で出しているなかで一番おいしいのは、お刺身定食じゃあないんですよ。
宮城県に移り住んだ友人が大事に育てている仙台牛を使った牛たん定食が最高なんです。今年は未年っていうじゃないですか。それはそれとして牛たん定食だけは自身を持ってオススメできます。これだけはマジ。うそですけど。
いや、マジメな話、神奈川県の、湘南と呼ばれるようなこの地域でね、仙台牛の牛たんをオススメって、ちょっとブランディング的にどうなんだろう?って思うんですよ。望まれてないでしょ?
例えばあなたが明日京都旅行に行ったとしましょう。そこで友達にね、なんかおいしいもの連れてってよ、って言った時に連れて行かれた先が九州ラーメンの店。これどうなんです?釈然としするのか、しないのか。どっちなんですか。どちらでもない。はい正解です。何でも二択で答えられると思ったら大間違い赤間違い黃間違いですよ。人生はそんなにシンプルではない。スティーブ・ジョブズの言葉です。
死んだ人の言葉はどうでもいいか。そもそもそんなことジョブズは言ってないし。
牛たんの話ですよ。

《以下延々とつづく》

伊藤ガビンかど松 2015「おモチ、お正月」より

須田桃子『捏造の科学者 STAP細胞事件』を読んだ

捏造の科学者 STAP細胞事件
須田 桃子
文藝春秋
売り上げランキング: 135

科学面の新聞記者はこんなに日常的に(かならずしも記事取材に関連しない時でも)研究者とコミュケーションしてるもんなんだなというのがまずけっこう新鮮だった(STAP細胞事件が(結果的に)スター研究者を何人も巻き込んだ展開だったからなのかもしれないけど)。

笹井氏の発表直前のリークに始まり、論文に嫌疑のかかり始めたころから笹井氏の自殺直前まで何通となくやりとりされた個人的なメール交換を公開しながら淡々とSTAP細胞事件の経緯が追われていて、へんに脚色されていないぶん息苦しくなるような本だった。


芸術新潮 2015年2月号『超芸術家赤瀬川原平の全宇宙』


ようやく手に入れて読んだ。赤瀬川原平さんは好きすぎる時期に「赤瀬川さんが亡くなるような時がきたらどう思うだろうか」ということを勝手に覚悟していたことがあって、亡くなったことの動揺がいくぶん少なかったなと思っていたのだけど、この特集が訃報以来いちばんしんみりしたな。

赤瀬川さんの場合は結論が比喩なんです。

林丈二

林丈二さんの「結論が比喩」という赤瀬川さん評がものすごい的確だなと思った。


ゲー夢エリア51『遠山茂樹作品集・アートワークス編』を読んだ


80〜90年代のナムコの商業ロボット、アーケードゲームなどの企画・開発・アートワークにおける、ひとことで言えば当時のナムコの「男の子が大好きな部分」を一手に支えていたデザイナー、遠山茂樹さんの仕事を秘蔵資料と超々ロングインタビューによって解き明かす同人誌シリーズ第3弾。去年の年末に買ってたのをようやく読んだ。

前2巻を読んでても思ったけど遠山さんの丸っこくてテールヘビーなメカニックやカクカクしたロゴワークはかっこよさの記号としていまだに染み付いていて抗えない感じがある。同人誌なのもある意味よくて、美術書としていい紙のフルカラーとかで出てたら冷静にぱらぱら見て終わりにしてしまいそうなんだけど、この印刷は荒いけど情熱的な編集がなされた分厚い本をすみずみまで読むという体験そのものが久しぶりのわくわくだった。サークル主宰のぜくうさんに感謝。


宮崎夏次系『変身のニュース』を読んだ

変身のニュース (モーニング KC)
宮崎 夏次系
講談社 (2012-11-22)

『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』にはけっこう衝撃を受けたのでこちらも読んでみた。作品てきにはこちらが先に出てたもののようで、なるほど初期作っぽくあった。あと話で人が死にすぎる(と思ったけどこれは気にならなかっただけで『夢から~』もそうだったかもしれない)。「ダンくんの心配」がいちばん好きかな。

ref: 宮崎夏次系『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』を読んだ | text perforation



黒田硫黄「アップルシードα」の1巻を読んだ

アップルシードα(1)
講談社 (2015-01-16)

なにが凄いって黒田硫黄がアップルシードを描くことがすでにサイボーグ以外のなにものでもないってところだな。原作とはぜんぜん位相のちがう絵のうまさと複雑さと情報量が展開されてくらくらする。

あとカバーをはずした表紙にある原作(青心社版1巻)の模写がいい。


九井諒子『ダンジョン飯』1巻を読んだ

ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス(ハルタ))
KADOKAWA / エンターブレイン (2015-01-15)

ようやく手に入って読んだ。いいなーこれは。ちまたの食マンガブームにちょっといじわるなひねりになってるとことか、王道ファンタジーに自然な生活感をかもした「異世界あるある」になってるとことか、いかにも九井諒子さんらしい。ちょっと懐かしい感じがあるのはテーブルトークRPGのリプレイぽいからかな。

これそのままゲーム化されないかな。


岡田美智男『弱いロボット』を読んだ

弱いロボット (シリーズ ケアをひらく)
岡田 美智男
医学書院
売り上げランキング: 196,895

こないだ紹介したみどるの連載で取り上げられていた(数理的発想法 「弱い」ロボットがらしい「人間観」を切り開く)岡田美智男さんの変わったロボット研究についての本。ロボット研究の本だけど工学系の出版社ではなくて医学系の出版社の看護やリハビリ、発達にかんする話題を扱う「ケアをひらく」というシリーズの1冊。ちなみにこの「シリーズ ケアをひらく」だと綾屋紗月+熊谷晋一郎「発達障害当事者研究」もすごい変わった本でおもしろいです。

厳密な会話理解による「正しい会話」の実現を目指す研究をするなかで、むしろ人間がよくするぜんぜん正しくなくて結論さえあいまいな「雑談」をコンピュータにさせてみようと考えたのが岡田さんの今につながる研究の第一歩だったそうだ。コンピュータに雑談をさせる研究での知見として「ちょっと聞こえにくいくらい音量を下げると雑談っぽい」ってのがあってちょっとおもしろかった。音声は女性の声を1.1〜1.2倍のピッチにしておくとか。全体的な思想もおもしろいんですが、そういう細かい工夫や気付きが書かれているのがよかった。