山本崇雄『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』を読んだ

なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか - 日経ビジネス 別冊書籍・ムック・増刊のご紹介


ガビンさんと話をしてて山本先生のことが話題に出てきたので買って読んでみた。いわゆるアクティブラーニングの成功ケースが具体的に載っていておもしろい。グループワークの資料を配らずに四方の壁に貼って、資料まで移動して読む→グループで自分が理解した内容を説明するという活動にすることで「他人のために自分が動く」という動機を授業に組み込む方法(ジグソー法というらしい)はなるほどと思った。

ただこういう授業スタイルをプログラムの授業に持ち込むのはどうしたらいいのかなー。ペアプロとかはちょっと検討したこともあるけど、ほぼ何もできない二人でペアプロはちょっと無理っぽいよなーと思っている。ほかになにかやり方があるかな。


朱戸アオ『リウーを待ちながら』を読んだ

リウーを待ちながら/朱戸アオ 第1話 横走へようこそ - モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ


これもBug-magazineの『汽水域の旅』で取り上げられてて読んだやつ(マンバ通信で前さんが紹介してた)。日本国内での致死伝染病(ペスト)のアウトブレイクをきわめてリアルに(漫画的な愛嬌も込みで)描ききった素晴らしい漫画だった。上中下の3巻で完結するところもポイント高い(人に薦めやすい)。

著者の朱戸アオさんのblogにある覚書で、医療関係者であったわけでも医学を専門的に勉強したわけでもない、一介の漫画家だと書かれていてそこもまったく予想外でびっくりした。


藤田祥平『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』を読んだ

手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン


IGN Japanのレビューやコラム連載も楽しみにしている藤田祥平さんの初長編小説。『電脳奇譚(IGNのコラム)』などを読んでいてもこれどのくらい実体験でどのくらい創作なのかなと気になっていたけど、「半自伝的小説」と銘打たれたこの小説でもその多くが実体験からと思われる語りで構成されていて、ヴォネガット流と言えばいいのかな、世界に強烈なNOをつきつけらればらばらになった人間の諦観と、その魂が自分が生きるべきもう一つの世界を探す彷徨とをモザイクにしたような小説だった。とてもよいと思う一方でこういうスタイルの小説に感化されるには自分が歳をとりすぎてしまったなとさびしくも感じた。

奥さんによると、居間に置いてあったこの本を小5の長男が見つけ、ゲームに関係する話らしいことを了解して「これ読んでみようかな」と言ったのだそうだ。奥さんが帯の惹句(『母がリビングで首を吊ったとき、僕は自室で宇宙艦隊を率いていた』)に触れたらじゃあやめとくと引いたそうだけど、若くそして僕よりよっぽどゲーマーの素質がありそうな彼がこの本を読んでいたらどうなっていただろうか。


よしながふみ『大奥』を読んだ

大奥


ゲンロン8のサイン会中継で激賞されてたので読んでみた。完結してるんだと思ってたらしてないのね。

どういう話かはなんとなく知っていたとはいえ江戸幕府のこともよく知らないしBL系の作品も読みつけないので最初かなり混乱したけど、だんだんと慣れて内容に没頭できるようになったらおもしろみが理解できるようになった。読んでみてわかったこととして、この作品の設定(ジェンダーロールが逆転した時代劇)やBL的な(といっていいのかよくわからないけど)恋愛描写の必然性に、漫画の記号性が関わっているんだなと思えた部分があって、服装や髪型での差別化が困難ななかで極めて微細な記号の差異で描き分けられるこの漫画のキャラクターの世界において、社会のなかで男女の立場が逆転するに至るSF的な考証とは別のレベルで性別は容易に反転しうるしもっというとあるキャラクターと別のキャラクターも容易に混同しうる、そういう不確定性もふくめたかたちの「恋愛」が描かれているんじゃないか。歴史が好きな人にはもうちょっと別の文脈があるんだと思うけどそんなことを思った。


ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』を読んだ

ジェーン・スー 『生きるとか死ぬとか父親とか』 | 新潮社


読んだ。これまでの「『未婚のプロ』を名乗る謎の威勢のいい40代日本人女性、ジェーン・スー」というパーソナリティといっしょに打ち出されてきた著作とはあきらかに一線を画す力の入った一作。素晴らしかった。スーさんラジオで「もう私作詞なんてできない」とおっしゃっていたけど、なんのなんの、ドメスティックでプライベートでデリケートな風景から普遍的かつユーモラスな瞬間を選び出す眼差しや、タイトルの並びに、これまで以上に彼女の作詞家としての側面が浮かび上がっているように思った。


『ゲンロン7』を読んだ

ゲンロンショップ / 【国内送料無料】ゲンロン7


例によって新刊が出る前にとがんばって読んだ。前号に続いてロシア現代思想特集でまとめてロシアに関する論考を読んでるうちにちょっとロシアに親近感が増してきたかも。いち観光客としてテキストからのぞき見るロシアには精巧につくられた偽史や幻想文学のような、描かれていない歴史の厚みをふくめた重厚な虚構を読むような酩酊感を覚えてくらくらするんだけど、それが現実の隣国だということに二度目の驚きがある。イリヤ・カリーニン『魚類メランコリー学、あるいは過去への沈潜』とかいまだにこれ本当の話なの? と疑ってる。

許煜『中国における技術への問い——宇宙技芸試論 序論(1)』や山下研『イメージの不可視な境界——日本新風景論序説』もおもしろかった。


ヤマシタトモコ『違国日記』を読んだ

s-book.net Library Service


作家もしくは連載のパーマリンクページつくってほしいなあ…(ヤマシタトモコさんのtwitterアカウントにはAmazon著者センターがリンクされてたけど)。

Bug-magazineの永田希さんの本紹介連載「汽水域の旅」で「ヒットしちゃうんじゃないかと思うので、流行って読みづらくなる前に読んだ方がいいんじゃないですか?とあったので素直に読んだ。たしかにこれは素晴らしい〜。

朝(主人公の女子中学生)のキャラクターの描写にどうしても往年の富士宏さんぽさを感じてしまう。


スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした?』を読んだ

誰が音楽をタダにした? | 種類,ハヤカワ文庫NF | ハヤカワ・オンライン


邦題は「誰が」というタイトルになっているけど原題は「How music got free」であって犯人がいたとかそういった話ではない。音楽業界の命運を左右する技術が、楽曲制作やそのマネジメントといった制作者サイドの技術から、流通・入手コストを可能な限りゼロに近づけるための消費者サイドの技術へといつのまにか移り変わっていた90〜2000年代に不可避的に(だと思う)起きたことを克明に記録したたいへんスリリングなノンフィクション。ものすごく面白かった。

著者の冷静でありつつ絶妙に毒っ気を混ぜた文体も素敵だけど、3人の主人公(?)たちの舞台立てが完璧すぎる。一人は業界の政治に敗れ正式採用されなかった自分たちの優れた音声圧縮フォーマットの有用性を世に証明せんとする実直な研究者(mp3の開発者ブランデンブルグ)。もう一人は音楽業界の帝王として君臨しながらも、音楽のデジタル化とネット流通の発展には傍観者でしかなかったレコード会社CEO(ユニバーサルのダグ・モリス)、そして最後の一人、新しい音楽の中心になったダウンロード・サブカルチャーを代表するのは、「現実世界」ではバイト上がりのCD工場従業員を勤勉に続けつつ、ひたすら発売前のCDを持ち出して「シーン」にリークし続けたふつうの若者(RNAのグローバー)。この本来まったく交わらない三者の立場の隔たりにこそ90年代に音楽業界で起きたことの壮大さが示されているように思った。

そしてこのタイミングでこの本を読むともちろん漫画村問題とか(日本の)電子出版業界のこととかをもやもやと考えてしまう。音楽と較べると「本」はテキストと画像という意味でのコンテンツとしてはWeb(とWeb広告によるマネタイズ)が普及した時点で技術的にはすでに決着がついたものだとも言えるし、メディア体験としての「本」を超える利便性を消費者が手にしているかと考えるとまだ技術的転換点に達していないのだとも考えられる。「出版業界は音楽業界の失敗に学んでない」という決まり文句は事実だとは思うけど(この本にも「出版はデジタル流通が音楽よりも失敗している唯一の業界」というフレーズが出てくる)、結局のところ「音楽がタダになった」後の視点からの軽々しい言葉のように感じて個人的にはちょっとなーと思う。と同時に、Kindle UnlimitedもdマガジンもradikoもTVerも当たり前になった2018年にいまだマンガ雑誌の横断サブスクリプションサービスが存在しないのはなんぼなんでも遅すぎる終了〜と思う。いま言いたいのはそのくらいかな。


阿部共実『月曜日の友達』を読んだ

月曜日の友達 1 | 阿部共実 | 【試し読みあり】 – 小学館コミック


阿部共実さんの作品は話題になった『ちーちゃんはちょっと足りない』は読んであんまり自分には合わないかなーと思っていたんだけど、今作はものすごく突き刺さった。2巻まで読み終えて慈しむように再読しているけど、すべてのページが素晴らしい。ジュブナイル文学としてものすごい高みにあるように思う。

『月曜日の友達』深く深く深く感動したので年甲斐もなく壁紙にした

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ところでこれ好きなひとはBCCKSでも販売されてる鯉実ちと紗さんの『単語帳と狐のしっぽ』も好きだと思うのでぜひ読んでほしいな。


単語帳と狐のしっぽ』 鯉実ちと紗著


高橋ヨシキ『高橋ヨシキのシネマストリップ』を読んだ

商品一覧:高橋ヨシキのシネマストリップ


奥さんが買ってきて借りて読んだ(スモール出版の本ばっかり読んでる)。

取り上げている映画がいわゆる秘宝系というか、ジャンルムービーのものばかりになっているけど、「極端な世界設定や大胆な誇張を盛り込むことで、現実世界で誰もが気づいていながら見て見ぬふりをしている『本当のこと』を描いている映画」を紹介するというセレクトのロジックが明快でよかった。各紹介で恒例になっている「この映画を一言で言うと…」という要約の身も蓋もなさも素晴らしい。全体を通して高橋ヨシキさんの真っ当さが際立つ一冊だった。