映画『犬ヶ島』 公式サイト
ウェス・アンダーソンの映画はあんまり得意でないというかもっと好きな人に譲りたいと思ってしまう感じだけど、今作はウェス・アンダーソンが日本(のデザイン)を題材にするとこうなるというところをリアルタイムに観られてよかった。日本語を扱ったグラフィックデザインとしてここまで濃さを感じるものを久々に見たんだけど、それでいてこれまで見知ってきたものとは何かが決定的に異なっていることも感じて冷や汗が止まらないみたいな。異星人にキャトルミューティレーションされるとこういう感覚になるのではないかと思った。
ジェーン・スー 『生きるとか死ぬとか父親とか』 | 新潮社
読んだ。これまでの「『未婚のプロ』を名乗る謎の威勢のいい40代日本人女性、ジェーン・スー」というパーソナリティといっしょに打ち出されてきた著作とはあきらかに一線を画す力の入った一作。素晴らしかった。スーさんラジオで「もう私作詞なんてできない」とおっしゃっていたけど、なんのなんの、ドメスティックでプライベートでデリケートな風景から普遍的かつユーモラスな瞬間を選び出す眼差しや、タイトルの並びに、これまで以上に彼女の作詞家としての側面が浮かび上がっているように思った。
こないだのPS Storeセールで買っていた『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』クリアした。とてもよかった。これVR版とか出たらプレイし直してみたいな。
ゲームの中での(フィンチ家の人々の死因の)体験はそれぞれきわめてフレッシュかつ刺激的でよかったけど、ひとつ挙げるならやっぱりLewisのやつ(魚の頭を落とす作業をしながら空想に浸るやつ。Jerry Chu氏のコラム でも詳しく触れられている)だな。空想と現実が同居する感覚をあれほどすぐそこにあるものとして描き得た表現って他にないと思う。Barbaraのコミックの中に入る感覚もなかなかだった。
担当していた講義が2017年ですべて終了することになって、これで十数年つづいたセンセイ業も終わりだなーと思っていたところ、年度末も押し迫ったころにガビンさんから手伝ってもらえないかという依頼があり、もうちょっと続くことになった。
これまでと違うところはUnityで授業するとこで、僕からは授業内容としてこれまで自分がやってきたのに近いプログラム演習よりの企画案(Chrome拡張を作ってWebをいじるみたいな)を出していたんだけど、昨年度やったUnityの授業が予想以上に反響があった(卒業制作にUnityを使う学生が出てきたりとか)とのことで、昨年度の授業の流れを引き継ぐ形で授業をやることに。ちなみに昨年度担当していたのはsartoruhiga 先生で授業テキストを大幅に参考にさせて(というかほぼパクらせて)いただきました。最初に学生にやらせる演習が3DTextの数字を3次元空間のいろいろな向きに配置したサンプルシーンを配って「数字が正しい向きでシーンの真ん中に見えるように視点を操作しよう」というものになっていて、チュートリアルとして素晴らしかった。
昨年の授業の流れがあるとはいえ僕はUnityまったく触ったことなかったので大丈夫かなと不安だったんだけど、触ってみれば、これいまさら言うまでもないことなんだろうけどUnityはたいへん素晴らしいソフトで、コンピュータがそれほど得意でない学生にデジタルベースの作品をつくってもらう環境としてかなり可能性があるものだということがわかった。よいところいろいろあるけど(非商用無料だとか、機能がフルスタックだけどそこそこわかりやすいとことか)、美大の学生の授業という観点でいうと、Unityは「素材を用意(制作)する」という工程をスキップしてもそれなりの作品を仕上げていくことができる環境になっているという点が大きいんじゃないかと思う。学校や学科でだいぶ違うだろうけど僕の知る限りで、すくなからぬ美大の学生は「プログラム作品に素材(絵)が必要」となると全体の進捗そっちのけで(とくにプログラムに苦手意識があったりすると逃避にもなるので)絵をつくるのに没頭してしまうところがあるんだけど、Unityはシーンにプリミティブや標準アセットを配置して質感や反応を設定していくだけでも彼(女)らの創造性を発揮できるツールになっていて、「自分の素材」から出発しないぶん工夫が生まれて結果的に新鮮なものが生まれやすくなるように思う。もちろんUnityというパワフルなツールに使われてしまうという問題もあるし、それを超えるためにプログラミングについて知ってほしい(今回の授業ではほとんどプログラミングについては触れられなかった)というのもあるけど、そこは今後の課題。
授業テキストには 去年に続き Scrapboxを使った(今回は僕が作ったのを学生は閲覧のみ)。GUIツールの操作説明はGyazo GIFがいっぱい使えるのは便利。
映画『ランペイジ 巨獣大乱闘』オフィシャルサイト
特に何の期待もなく観に行ったけどとてもよくできた娯楽作でおもしろく観た。元ネタのゲームが80年代ものだからなのか、演出も80年代感(ダサいという意味じゃなくて、ウェルメイドという意味で)があった。巨大オオカミ+ハリネズミのラルフのアクションがフレッシュでもっと観たかった。
そういえばオリジナルのゲームプレイしたことなかった(Beepにマスターシステムの移植版の記事が載っていておもしろそうだなと思って読んだ記憶がある)のでやってみようと思って探したら映画のプロモーションでアーケード版の移植がWebで遊べるサイトがあった(Rampage Arcade Game – In theaters April 13, 2018 )。キーボードだとあんまりちゃんとプレイできないけど、ちまちましたキャラや細かく壊れるBGとかアーケードというよりもパソコンゲームっぽい感覚のあるゲームなんだな。
ゲンロンショップ / 【国内送料無料】ゲンロン7
例によって新刊が出る前にとがんばって読んだ。前号に続いてロシア現代思想特集でまとめてロシアに関する論考を読んでるうちにちょっとロシアに親近感が増してきたかも。いち観光客としてテキストからのぞき見るロシアには精巧につくられた偽史や幻想文学のような、描かれていない歴史の厚みをふくめた重厚な虚構を読むような酩酊感を覚えてくらくらするんだけど、それが現実の隣国だということに二度目の驚きがある。イリヤ・カリーニン『魚類メランコリー学、あるいは過去への沈潜』とかいまだにこれ本当の話なの? と疑ってる。
許煜『中国における技術への問い——宇宙技芸試論 序論(1)』や山下研『イメージの不可視な境界——日本新風景論序説』もおもしろかった。
ナツゲーミュージアム
GW特別企画かー行きたかったなーと思っていたらGW明けもまだやっていたので行ってきた。サブマリンも稼働しているというので『ギャラクシアン創世記 』を読んでナムコの工学系エレメカをもう一度見てみたかったというのも大きかったんだけど、現在の部品でのメンテナンスの具合で仕方ない(というか稼働しているのが奇跡)と思いつつ往時の(記憶の中の)奥行きのある海と印象が違ったのがちょっと残念だった。あとほかに『ギャラクシアン創世記』で澤野さん企画として「失敗作だった」と振り返られていた『キング&バルーン』を初めてプレイしたんだけど、後の『ギャラガ』に引き継がれるアイデア(キングがバルーンで連れ去れれるのとか、敵バルーンが合体して襲ってくるのとか)が盛り込まれているのも知らなかったので興味深かった。
あと『ゼビウス』をプレイしてたらいわゆるエリア間の森の中にゼビウス軍の秘密基地がある状態(エリアの敵キャラデータの転送途中でミスしてエリアが戻されると発生すると言われているやつ)を初めて自分のプレイで見た。これは確かに意味深なグリッチで当時見たら噂になるだろうなあ。
サイエンスライターの森山和道さんが発行している老舗メルマガ『サイエンス・メール』は、森山さんが注目するさまざまな分野の研究者を直接取材したロングインタビューをほぼノーカットで数ヶ月にかけて配信するというメディア。僕はまだ学生のころに森山さんのウェブサイトを知って『サイエンス・メール』の前身である無料メルマガ「NetScience Interview Mail Home 」を購読して以来(有料メルマガになってからはしばらく購読していなかった時期もありますが)、なかなか他のところでは得られない最新の基礎研究の世界の話や研究者がどんなことを感じながら研究しているのかを知ることができる貴重な読み物として楽しんでいる。
で、今回はその『サイエンス・メール』で2月から連続配信されている(まだ継続中)鳴海拓志さんのインタビューシリーズがすごいおもしろいのでもっと話題になるべきという話をしたい。鳴海さんの研究はVR、ARなどIT業界的に近年(何度目かの)ホットなトピックで、メディアアートやゲームとかいわゆるメディア芸術に隣接した表現でもありWebメディアの記事になったり紹介される機会も多いの研究成果としては「知ってる知ってる」というものも多いんだけど、そうした視覚やそのほかの感覚に介入する技術の積み上げを足がかりにして、人の認知そのものをチューニングし現実の行動をサポートするツールが作れないか、という鳴海さんの目標がたっぷり語られているところがとても興味深い。
インタビュー冒頭が
※○:森山さん ■:鳴海さん
○VRって、最近はだいぶ知られて来るようになりましたけど、まだまだ一般の方って、「バーチャルリアリティ(VR)」って、「おもしろ体験を作る物だ」ぐらいの感覚しかないと思うんですよ、多分。
■うん。
○それってちょっともったいないなと思っていて。その裏にある認知科学的な知見であるとか、あるいはそういうサイエンスにも踏み込んで行けるツールでもあるんだよ、というところを、できれば読者の方にも感じてもらいたいなと思っていて。それには鳴海先生がぴったりなんじゃないかなと思いまして、今回インタビューをお願いしました。
■それは、ありがとうございます。
サイエンス・メール 2018/2/8 鳴海拓志-1
というところから始まるんだけどまさにそういう内容になっていて、VR系の開発者だとか人の行動を変えるデザインに興味を持っている人には必見のインタビューだと思う。「ボイスチェンジャーによる擬似的な女声と機械的なボディコンタクトという人を馬鹿にするなという装置でも、男性が事実やる気になる」みたいな、VTuber的にビジネスチャンスを感じる知見も語られているし。
上記の知見はこの公開講義でも紹介されてた
あと『サイエンス・メール』のいいところは、研究者として道を定める以前の学部時代のわりとふわふわした話だとか、今の研究に至る長い経緯や人のつながりだとか、あとまだ研究になっていないアイデアだとか、かなり雑談にちかい話もカットされずに読めるところだと僕は思っているんだけど、鳴海さんの回では「駒場キャンパスを歩いていたら岩井俊雄さんに会ったことが今の研究につながる原点」みたいな余談的ないい話もあっていい。インタビューシリーズはまだ終わってない(そろそろ終わりかな?)ので今後も楽しみ。
まぐまぐで個別販売もされているそうです。
Oculus Go | Oculus
PSVRもスルーして、VRヘッドセットはスタンドアロンのDaydreamデバイスが日本で買えるようになってからかな…と内心思っていたんだけど、自分の誕生日プレゼントとしてなにか買おうかなと物色していたタイミングでOculus Goがいきなり販売開始されたを見て衝動買いしてしまった。衝動からの注文だったせいもあり住所はばっちり日本語で入力していたので、雑な機械翻訳で配送先が書かれて配送が混乱しているという話(話題のOculus Goで配送トラブルが発生中 注文の際、住所は「英語」で書くべし(訂正あり) – PANORA )に戦々恐々としていたんだけど、結果的には僕の注文に関しては問題なかった。配送のトラッキング情報をチェックしていたらCHIBA-SHIで「荷受人が留守または休業」というステータスに変わったので、
これは間違った住所に届けられたのか? と思ってFeDexに問い合わせメールを送ったら折返し電話があり、「住所は多少間違っているが問題なくて実住所が不在だっただけ、CHIBA-SHIと表示されているのはFeDexから配送を受け渡した国内業者の営業所が千葉だということを示している」とのことだった。丁寧なサポートでFeDexの好感度上がったけど表示はちょっと工夫してほしいな。あとモバイルビューが日本語対応してないのも。
VRヘッドセットとしての完成度は評判通りで、スマホを触るくらい、とまではまだいかないまでも、ノートパソコンを開くくらいの心理的負荷でVRにアクセスできるのは素晴らしい。変にもったいつけられて期待値が上がらないのでVRコンテンツ自体の驚きも増す気がする。さすがに大きさや現状の用途的に日常持ち歩くデバイスにはならないけど、あと2世代くらいデバイスとソフトの進化が進むとまさに今の「スマホを触るくらい」の感覚で触れるものになっていくんだろうなと思う。
ソフトはまだいろいろ試している段階だけど、いっこ挙げるならSmash Hit かな。Coco VR は出来は悪くないけど期待があったぶんいろいろ残念に思った。評判のvirtual virtural reality もいいんだけど、ゲームシステム的にポジショントラックを前提としているのでGoのコントローラだとどうしても操作のストレスが大きい。HTC Viveとかでちゃんとやりたい。
あとBlade Runner 2049: Memory Lab | Oculus がある意味よかった。これゲームとしてはすごいしょぼくて、グラフィックのクォリティとくにテクスチャの解像度が初代PSくらいな一方で実写ムービーとの合成があったり、総体として1995年のゲームの雰囲気を醸しているだけど、このドレスダウン感が逆にサイバーというか、わざとじゃないんだろうけど「当時のスペックで夢見られたサイバーパンク/VRの世界」を今体験できるというコンテンツになっているのでそういうのが好きな人におすすめ。ただこういう頻繁に周囲を見回して体験するゲームはちゃんと立ってプレイしないと首にとてつもなく負担がかかるというのが翌日わかった。
s-book.net Library Service
作家もしくは連載のパーマリンクページつくってほしいなあ…(ヤマシタトモコさんのtwitterアカウントにはAmazon著者センターがリンクされてたけど)。
Bug-magazine の永田希さんの本紹介連載「汽水域の旅」で「ヒットしちゃうんじゃないかと思うので、流行って読みづらくなる前に読んだ方がいいんじゃないですか? とあったので素直に読んだ。たしかにこれは素晴らしい〜。
朝(主人公の女子中学生)のキャラクターの描写にどうしても往年の富士宏さんぽさを感じてしまう。