斉と 公平太『オオウチ錯視の作者を探す旅』を読んだ
最近BCCKSで販売開始された本で、現代美術作家の斉と公平太さんが、自身の作品として進めていたプロジェクトを読み物としてまとめたもの。斉と公平太さんのことを存じ上げなかったのだけど、岡崎のゆるキャラ「オカザえもん」を作品として制作したり、変わった活動をされている方みたい。
「オオウチ錯視」についてはネットで検索するといっぱい出てきてわかるとおり、モノクロの模様の組み合わせの作用により見ていると図形が動いているように感じられる錯視図像として初期に発見されたものの一つとして有名なもの。これはもともと日本の出版社が出した図案集本に掲載されていたパターンを偶然見かけたドイツの視覚研究者Lothar Spilmannさんがその視覚的効果に着目して研究対象にしたことから有名になったもので、これほど有名(レディーガガのCDジャケットデザインに採用されるほど)になっているにも関わらず、元のパターンの作者は「Hajime Ouchi」という名前である他は全く不明だったのだという。このオオウチハジメさんとは誰なのか? その人を探すことはできるのか? そう考えた斉と公平太さんは、わずかな手がかりからオオウチさん本人の所在を探りつつ、そのように名前と作品のみが(しかも本来の意図とはまったく別のかたちで)流通するのはどういうことなのか、作品とその起源、作品評価の前提や有名性のことなどを美術の文脈やクリケット(クリケット?)と対照しつつ思索する。
上記の通り突然クリケットの話題が出てきたりするのだが、この本そのものが壮大な冗談ともとれるような仕掛けにも満ちていて、不思議に愉快な読後感があった。BCCKSの中の人的には本の作りはもうちょっとなんとかするといいのになと思ったりもしたけど(横書きのほうが読みやすいのではと思った)、こういう半分作品のような本がもっとひろんな人に作られるといいなと思った。