2018年8月のまとめ

8月は新しい仕事が始まり(Nuxt.jsとかPixi.jsとかを触っている)、旅行があり帰省がありでばたばたと過ぎていった。


セバスチャン・ローデンバック『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』を見た

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』


ユーロスペースで。もっとスタイルで押す感じの作品を想像していて、物語を丹念に追う映画的な作品だったのに驚いた(公式サイトの片渕監督の推薦文の通り)。淡々としていながらも退屈するところもない見事な作品。

アニメーションとしても見たことがない仕上がりで、こういう筆タッチのラフな絵を動かすとなるとフェードでつないだ紙芝居的なものか逆に非常になめらかに動かすかのどちらかのものになりがちだったと思うんだけど、この作品だと印象としては「動き始めると線が消える」というような不思議な感覚があった。『この世界の片隅に』や『かぐや姫の物語』との相似性は言うまでもないけど、フレデリック・パック『木を植えた男』もなんとなく想起した。あと筆タッチからの単純な連想だけどこのスタイルで『大日本天狗党絵詞』とかアニメ化してほしいな。

大人のためのグリム童話 手をなくした少女


千仏鍾乳洞に行った

千仏鍾乳洞 公式ホームページ


奥さんの実家(小倉)に帰っているときに子供連れで行った。鍾乳洞というと飛騨大鍾乳洞くらいしか行った記憶がなくて(それも小学校低学年以前)、まあ暑いし涼しいスポットならいいかな…という感じで向かったんだけど、だいぶイメージが違った。

千仏鍾乳洞は洞窟としては小規模だからだろうけどキャットウォーク的な通路が整備されておらず、洞穴もかなり狭く(すれ違えないどころか場所によってはカニ歩きしたり頭を下げたりしないと通れないくらい)、しかも道中後半は地下水がくるぶし以上ひざ未満くらいのまあまあの深さでたまっており、涼しいどころかめちゃ冷たい地下水に30分以上足をつけたまま進むことになるというちょっとした沢登りくらいの覚悟が必要なワイルドな場所だった。うかつに乳幼児とかを連れてフランクに入ると大変なことになりそうだけど、トラブルとかないのかな… バリアフリー感のなさも含め昔ながらの観光地でなかなか貴重な体験だった。

千仏鍾乳洞ワイルドでよかった

kotaro tanakaさん(@doppac)がシェアした投稿 -


ゼロベース越後湯沢ワークショップ

CliftonStrengths | Gallup


例年通り社員旅行の最終日は社員によるワークショップとして、今年は各自事前に受けておいたストレングスファインダー®の診断結果をもとに、ゼロベースに集まる人の資質や強みを確認しながら、これからの会社や自分自身のあり方を考えるディスカッションをした。ストレングスファインダー®の診断初めて受けてみて、自分の診断結果を単体で見ても正直うーんこういうもんかなという感じだったんだけど、他の人の結果を比べたり組織の構成員全体の傾向として見るとけっこう興味深いことが浮き彫りになって面白かった。ゼロベースはとにかく競争心がある人がいないことがわかった。

Image

弊社のワークショップファシリテーター五十嵐さんによる興味深い社員全員の強みシート


『越後妻有アートトリエンナーレ2018 大地の芸術祭』を見た

大地の芸術祭の里 http://www.echigo-tsumari.jp/


ここ数年続いているゼロベースの社員旅行で今年は大地の芸術祭に。越後妻有アートトリエンナーレは行ったことなかったのでうれしい。新潟に入るのも人生初めて…と思ってたんだけど中学生の時にボーイスカウトのジャンボリーで行ってたみたい。

Image

今年もツアーディレクションはイガラシさん GoogleDocsによる労作のしおり

初日は新幹線で越後湯沢駅に到着し、清津峡渓谷トンネルの作品を見た。新潟ほぼ初めてなので清津峡もまったく知らず、このトンネル芸術祭のために作ったの? と一瞬思ったけど当然そんなわけはなく、

かつてあった遊歩道が落石の危険のため閉鎖されたのち、天然記念物である峡谷を破壊せず安全に鑑賞するために峡谷の各観覧ポイントにアクセスするための作られたトンネルを、大地の芸術祭とのコラボリニューアルとしていくつかの作品をインストールしたということらしい。なんかこのトンネル自体がちょっと合理性から離れたものなのではないかという感じがあって(観光用というより土木のにおいがするわりに出口がないとか)、各ポイントに作品が置かれることでトンネル自体がはっきり作品化したことになる今回のリニューアルはよいものだったんじゃないかなと感じた。

Image

Image

二日目はオフィシャルガイドツアー(シャケ川のぼりコース)に参加。各所30分とかスポットによっては16分とかで慌ただしく見回るいわゆる団体バスツアーは久々で新鮮だったものの、やっぱり作品鑑賞としては興を削ぐところは大きいなと思った。シュー・ビン(徐冰)「裏側の物語」とかもっと長く見たかったなー。

Image

うぶすなの家のアニメ美術感すごかった



2018年7月のまとめ

いちおうメモってたのだけまとめて書き出し…


上田慎一郎『カメラを止めるな!』を観た

映画『カメラを止めるな!』公式サイト


評判を聞いて見に行ったんだけど、評判通りすばらしくおもしろかった!

耳に入ってくる「超低予算だけどワンアイデアでヌケの良い作品」という評判にわれわれがイメージするものをひとまず及第点の形で提示して、それをまさにヌケの良い形で裏返して、さらにそれにしっかり熱狂してしまうという構造そのものもずっぽり抜いて見せてくれるという、僕はいわゆるネバネバ耳垢タイプの人間なので味わったことないんだけど、耳の穴の形がわかるようなでっかい耳垢が取れたときの快感というのはこういう感じなんじゃないかと思うような映画だった。


tampen.jp『アニメーションの<いま>を知る――「キャラクター」という宇宙』を観た

tampen.jp主催の「キャラクター」をテーマにした上映会が東京・渋谷で開催 | tampen.jp


上映作品が面白そうだったので(あと上映会場に馴染みがあるので)観に行ってみた。

最初にtampen.jp主宰の田中さん(だったかな)からこの上映会の趣旨についての解説があったんだけど、その話が「村上隆以降ポップアートとしてのキャラクター表現が一般化した結果、アニメーションの世界でもそうした表現が用いられるようになった」のだというところから始まったのがなかなかおもしろいなと思ったんだけど、もともと村上隆がアートの文脈に持ち込んだ日本のオタク的表現の多くはアニメーションからの引用なので、アニメの表現が美術を介してアニメに再導入されているというか、オーバーダビングみたいなことになってるんだよなと思った。少なからぬ作品に幽霊感というか、不穏なものを感じたけどオーバーダブ感と関係しているのかもしれない。

よかった作品を一つあげるなら前田結歌『正太郎』だったかな。グラフィックツールによるエフェクトがツールのインターフェイスも含めてあからさまに作品に取り入れられているのが新鮮で、アフタートークではポストインターネット的と言及されていたけど、アニメーションとしてはオイルペインティングのような効果にも見えるなーと思った。


デイヴ・マッカリー『ブリグズビー・ベア』を観た

映画『ブリグズビー・ベア』公式サイト


観てきた。こういう映画かー! これは泣くしかない。フィクションの世界がフィクションの力そのものによって救いがおとずれるタイプの作品(映画の中で映画を撮る映画)のなかでもかなり恣意的なシナリオなので、下手をするとすごいしらける作品になる可能性もあったはずだけど、すべての瞬間が愛おしい奇跡のような映画になってた。

80年代ポップカルチャーオマージュの作品でありながら、オタク的な固有名への言及や目配せが(僕が目につくところでは)ほとんどないという潔さのなか、呪縛の象徴である主人公の誘拐犯役にマーク・ハミルを起用して映画史とポップカルチャー史に接続するという鮮やかさにもしびれた。