平松るい『かど松 2018 特集 いぬ』を読んだ

年賀雑誌かど松2018 特集いぬ | かど松屋さん


判型で意表をつくやつはやってるな

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判型が変わった第4号。ひらまつさんのデザイン&発注スキル向上によるものか異種の用紙をまぜこんだ製本になってたり挟み込みの別冊まんががついてたりとジンっぽさが増している(あと紙質がグラビア誌っぽいからかいままでになく雑誌を読んでる気分になった)いっぽうで(あの唐突な)人物取材/インタビュー記事がなかったのは残念に思った。連載陣では細馬さんのぼんやりエッセイが優勝。

これまでのかど松レビュー


NovelJam 2017のエントリー作を読んだ

NovelJam(ノベルジャム)|NPO法人日本独立作家同盟 on Strikingly


小説家と編集者、イラストレーターがチームを組み、2日間のスケジュール内で小説の企画、執筆、編集、発行および販売を目指すという世にも珍しいライブ書籍制作イベント「NovelJam(ノベルジャム)」というイベントが日本独立作家同盟(電子書籍時代のインディペンデントな作家活動を支援するNPO法人)主催で2月の頭に開催されていて、BCCKSは協賛企業としてイベントを支援していた(僕はスタッフとして参加できなかったんですが)。「執筆活動で音楽のジャムセッションのようにライブで生まれる体験を作れないか?」というような発想で生まれたと思われるNovelJamだけど、今の電子書籍環境ならば作家が会場に集まって作品を書いてコンテストして結果発表、というその場その時間の盛り上がりを「あれがもう今買って読めます! In Store NOW!」という形で読者側につなげられるはずで、今回はその試みのプラットフォームとしてBCCKSを使ってもらえてうれしい(BCCKSのストア配本サービスを使ってKindleをはじめとした各電子書籍ストアにも配信済み)。BCCKSの書店システムといういまいち活用されていない機能も、エントリー作や受賞作をイベント中に追加更新しながら結果発表書店を作るという形でフル活用できたみたい(もともとこういうコンテスト用途も見込んで開発された機能なのですよ…)。

NovelJam 2017 - Powered by BCCKS / ブックス

実際こういう趣旨でエントリーされた作品が並んでいるとじゃあまとめて読んでみようかという気持ちにもなってくるわけで(それが可能なエントリー数ということもあるけど)、今回は全作品を購入して読んでみた。二日間でゼロから書かれているので当然だけどどれもさっぱりとした短編で、普段なら読まないようなバラエティある小説をどんどん読めて楽しい。言いかたを変えると物足りない、割高ということにもなるけどそこは(少なくとも今回は)NovelJamという祭りに参加するチケット代と考えることもできるのかなと。電子書籍ではさくっと読めるシングル的な本がたくさん流通していくべきなのでは的な業界予測がされながらもいまいち定着していないわけだけど、こういうリアルイベントとのつながりというのは一つの解かもなと思った。

エントリー作のなかで一番好きだったのは『PAUSA』(澤俊之(著) 波野發作(編) 松野美穂(アートディレクター) 亀山鶴子(表紙デザイン・イラスト))かな。テーマである「破」にはあんまりつながってなかったのかなと思うけど読後感はとてもよかった。


PAUSA』 澤俊之(著) 波野發作(編) 松野美穂(アートディレクター) 亀山鶴子(表紙デザイン・イラスト)著

あともう一作挙げるなら『低体温症ガール』(ふくだりょうこ(著) 鈴木沓子(編) 亀山鶴子(表紙デザイン))が好きだった。短い作品ながら登場人物のキャラクターに触れたかんじがあって、このキャラクターたちの話がもっと読みたいといちばん思った。


低体温症ガール』 ふくだりょうこ(著) 鈴木沓子(編) 亀山鶴子(表紙デザイン)著


平松るい『かど松 2017 特集 とり』を読んだ

年賀雑誌かど松2017 特集とり | かど松屋さん


あー今年もかど松買わなきゃなーと思って放置してるうちに2月になっていたところ(つまり忘れていたところ)運良くひら松さんのツイートを見かけて思い出したので注文した。雑誌デザイン力は着実に上がっているようで、「年賀雑誌」とかいうよく考えると聞いたことのない文言がさも当然のように雑誌ロゴに組み込まれていて(オリジナルの封筒のヘッダにも書いてあった)頼もしい。

内容もよくなってきた気がするな(実際は一年に1回づつしか見ないからなんとなくだけど)。服部みれいさんはよく知らなくてえーと恋愛呼吸のひとだっけくらいの認識だったけど、雑誌編集ゴコロのありかたみたいなのがよくわかってよかった(弁当とか料理の盛り付けで宇宙を創造するのが大好きだとか)。

ucnvさんインタビューもおもしろかったんだけど、ちょっと疑問があったのでtwitterで質問した。

u (…)ノイズ表現って何でもそうだけど、再生機器の出力の解像度が上がることで、芸術表現の環境が整ってくるので、そこに対するカウンターとしてのローファイ欲みたいなものが組み合わさったところでグリッチ表現が確立されたんですよね。ーーで、よく言われる例として、ファミコンにカセットを半分さした状態にすると画面がぐちゃぐちゃになるのがグリッチの原体験という人が居るんだけど、ぼくはそれ、無理矢理結びつけているだけっていうか…

 あー。

u ファミコンの頃に用語としてグリッチって無かったし。

 ファミコンはずいぶん前ですねぇ

u ファミコンの画面とグリッチを結びつけている人ってドット絵表現によくあるピクセルを正方形に巨大化しているようなイメージをしているんだと思うんだけど。実際にファミコンを再生するブラウン管って全然そうじゃないし、むしろぼやけているので、頭の中でねつ造されたローファイのグリッチがあるなと僕は思っているんですよね。

平松るい『かど松 2016 特集 とり』 表紙のはなし ucnvインタビュー

で、こういうやりとり。

上に引用した部分のあとに、グリッチの定義についての話も出ていた(し、過去のucnvさんの立場として定義を重視しているように思っていた)ので、ファミカセの斜め差しがグリッチに当たらないとしたらどういう意味なのかを確認したかったんだけど、ucnvさんのインタビューでの意図としてはファミカセ斜め差しが原理的にグリッチかどうかとは関係なく、今日的なグリッチ表現の文脈とファミコンのようなローテクゆえのカオス的なグラフィック(ローファイ)は全然別のもので雑にいっしょにするべきではないということと理解した。くわしくはみんなもかど松を買って確認しよう。

これまでのかど松レビュー


平松るい『かど松 2016 特集 さる』を読んだ

かど松2016 特集さる | かど松屋さん

去年に引き続き平松るいさんの年賀ZINE『かど松』を取り寄せて読んだ。2年目だけどすでに「新年改まったころに読むもの」として定着した感じがあるなあ。年賀状はもう形骸化した儀式になってて参加したくなさが強いけどこういう別のかたちの年次刊行物にしてしまうといいのかもしれないな。

表紙がバナナのテクスチャになっているのにはしばらくしてから気づいた。


平松るい『かど松 2015 特集 ひつじ』を読んだ

平松るいさんというのは女子美の学生さんで、modern fartでの細馬宏通さんの連載「うたのしくみ」の巻頭イラストや単行本の表紙イラスト、二階堂和美「とつとつアイラヴユー」MV(アニメーションVer.)などを手がけてらっしゃるイラストレーターさん。とつとつアイラヴユーアニメーションVer.は気合入った仕事で未見でしたらぜひどうぞ(これアニメじゃないVer.も観るとすばらしさがよくわかるんだけど、いまだにじみ 【デラックス・エディション】買わないと観れないっぽい)。

で、その平松さんがこの新春にお年賀がわりの自主制作雑誌「かど松」というのを作ったので希望者に配布しますよとtwitterでツイートされていたので所望したところ、2月になっても届かないので変だな―と思いつつ、これはきっと平松さん忘れているだろうから今年の年末あたりに届いてなかったよと問い詰めてやろうとか意地の悪いことを考えていたらなんのことはない家族が受け取ったものが荷物の山に紛れ気づいていなかっただけだった。

それでようやく「かど松」を読んだのだけど、これがすごいよいもので大変ありがたい気分になった。もう2月も中旬だけど正月のあらたまった気分にもどされたかんじ。なんでかとても気持ちのよい雑誌になってました。

そして収録原稿のなかでも白眉とされる伊藤ガビン渾身のなんの役にも立たないテキスト「おモチ、お正月」が素晴らしい。媒体上たぶん読んでるひとがそうとう少なそうなので、ここに少しクリップしておきます。

かど松を定期購読なさっているみなさん、はじめまして。神奈川県で小さな食堂を営んでいる伊藤と申します。ウソですが。
むかしは東京で編集の仕事などをちょこまかしていたのですが、いまは出身地である神奈川県の海沿いに根をおろし、ちいさなちいさな食堂をはじめました。うそですけど。
うちの食堂は、料理をする私がどこか名のある料理店で修行したわけでもないですし、特別な仕掛けも、眼を見張るような眺望も、なんにもないんですよね。でも、魚を見る目だけは、なぜか子供の頃からありましてね。魚を見ると、それがすごくおいしい一匹かどうか、なぜだかわかる。ド素人の僕だけど、なぜかそこだけは自信がある。だから刺身定食を、うちの主力商品にしているんですよね。って自分の魚を見る目に自信持ちすぎですかな。うそなんですけども。
えーと。うそばっかりかいててもしょうがない。せっかく新しい年になったんだから、ほんとのことを、ほんとのことだけを、正直に書いていきたい。ほんというと、僕の店で出しているなかで一番おいしいのは、お刺身定食じゃあないんですよ。
宮城県に移り住んだ友人が大事に育てている仙台牛を使った牛たん定食が最高なんです。今年は未年っていうじゃないですか。それはそれとして牛たん定食だけは自身を持ってオススメできます。これだけはマジ。うそですけど。
いや、マジメな話、神奈川県の、湘南と呼ばれるようなこの地域でね、仙台牛の牛たんをオススメって、ちょっとブランディング的にどうなんだろう?って思うんですよ。望まれてないでしょ?
例えばあなたが明日京都旅行に行ったとしましょう。そこで友達にね、なんかおいしいもの連れてってよ、って言った時に連れて行かれた先が九州ラーメンの店。これどうなんです?釈然としするのか、しないのか。どっちなんですか。どちらでもない。はい正解です。何でも二択で答えられると思ったら大間違い赤間違い黃間違いですよ。人生はそんなにシンプルではない。スティーブ・ジョブズの言葉です。
死んだ人の言葉はどうでもいいか。そもそもそんなことジョブズは言ってないし。
牛たんの話ですよ。

《以下延々とつづく》

伊藤ガビンかど松 2015「おモチ、お正月」より

悪紫苑『ヴィーナス・アタッカーズ』を読んだ


ヴィーナス・アタッカーズ』 悪紫苑著

BCCKS / ブックス - 悪紫苑著『ヴィーナス・アタッカーズ』 http://bccks.jp/bcck/127334/info

12月から読んでた『ヴィーナス・アタッカーズ』をようやく読み終えた。作者の悪紫苑さんは初めて書いた小説だという前作『時空間エンタングル』からBCCKSで作品を公開してくださっていて、2年の執筆期間を経て発表された2作目がこの『ヴィーナス・アタッカーズ』。前作につづいてがっつりしたSF小説です。

人類により開発が進んだ金星——気温460度、90気圧、濃硫酸の雨が降る過酷な地表と、その上空50キロメートルに浮かぶ空中都市と飛行機たち——を舞台に、「大気圏内を飛びたい」という志願からまんまと金星に配属された飛行機乗りである主人公が、奇妙なめぐり合わせと不審なアクシデントを発端として大きな事件(?)に巻き込まれていく…という具合。前作の感想にも書いた通り、理学研究者である(んだと思う)著者の科学知識によるSF考証と、それをテコにして広げられた科学的大風呂敷の濃密さが持ち味ながら、ちゃんとエンターテイメントとしても最後まで(最後の最後まで…)おもしろく読めて満足した。

あとなんというからしいなあと思ったのはこの本の4章は「降下」というタイトルなんだけど、この章では確かに最初から最後まで「降下」しかしていないという。