土居伸彰『21世紀のアニメーションがわかる本』を読んだ

21世紀のアニメーションがわかる本 | 動く出版社 フィルムアート社


トークショーの前にと思って。アニメーションドキュメンタリーというジャンルの重要性の話など土居さんの前著『個人的なハーモニー』のおさらい的な部分もありつつ、本書の要旨である「21世紀のアニメーション」がどこに向かっているかいう議論はかなりアクロバティックというか乱暴ともいえる整理が炸裂していた。個別の作品の扱いがこれでいいのかという話は多そうだけど(僕はそこまで気にはならなかった)、「『私たち』の時代」の作品とは何かという定義については腑に落ちたというか、いわゆるポストインターネットの世界観とか、インディーゲームのナラティブとか、気になっているものを同じ枠組みで見ることができるんじゃないかと思った。

つまり『動物化したポストモダン』なんじゃないかという気もちょっとしたけど。


ラリイ・ニーブン『リングワールド』を読んだ

リングワールド (ハヤカワ文庫 SF (616))
ラリイ・ニーヴン
早川書房
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これもSF仕事関係で今回初めて触れてみて、いわゆるスペースオペラ的な小説に触れてこなかったせいかさわりを読んだら非常に新鮮でおもしろかったので、せっかくだからちゃんと読もうと図書館で借りて読み切った。けっこう長いしいちいち描写から地球人の常識から離れた宇宙人の容姿とか世界の様子を思い浮かべるのが大変で、読み切る前に返却期限が来てしまって何度か借り直したりしつつなんとかという感じだったけど、ちゃんと最後(広げた風呂敷は何一つ畳まれてないけど小説の終わりとしてはここしかない、というラスト)までおもしろかった。


アラン・ケイ『アラン・ケイ』を再読した

アラン・ケイ (Ascii books)
アラン・C. ケイ
アスキー
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エクリの水野勝仁さんの連載を読んでいて、ふとアラン・ケイの本を読み直してみようと思ったので図書館で借りてきた。前読んだのはあんまり定かじゃないけど、Oh!Xに荻窪圭さんの書評かなんかで知って発売当時に買ってたはずなので高校2年か3年の春休みとかに読んだんだと思う。地元のスキー場で雪が融けた後のグラススキー用のリフトの監視みたいなバイトがあって、それをしながら読んでた記憶があるので。

で読み返してみたら、言うまでもないけど今読んでもまったく古びていないインターフェイスの思想が語られた論文群で、あらためて読んでもこのころにこういうことを言っていたのかと新鮮な発見が多かった(「コンピュータ・ソフトウェア」のなかでスプレッドシートについて「セル宇宙のシミュレーションをするもの」だと説明するところとかは今回よんで初めてなるほどと思った)。

最後の講演録「教育技術における共立の対立」はたぶん前読んだときは読み飛ばしてた気がするんだけど、今回読んでここが一番おもしろかった。アランケイいわく、成功する製品は「人間の深奥の欲求にこたえる“増幅装置(アンプ)”になるもの」である必要があるが、その人間の欲求とは大別して「夢想したい」と「コミュニケート」したいに分けられると。この2つの定義は欲求の定義が(あまり細かくは語られないものの)独特で、たとえば飛行機のような時空間を圧縮するテクノロジーは「コミュニケートしたい」欲求をかなえるものになるのだという。では「夢想したい」はどういう欲求なのかというと、これは「自分だけのファンタジーを制御したい」という欲求だと考えればよい。ファンタジーとは、例えば言語、スポーツ、ゲーム、音楽、コンピュータシミュレーションなど「単純明快で制御可能な世界」のことで、つまり世界を単純で制御可能なものに見せてくれるテクノロジーが人々の心をつかむのだと説明されていて、この説明は非常におもしろかった。この定義でいくとSNSは「コミュニケートしたい」欲求に応えるようでいて「夢想したい」のほうの欲求に応えているんだな。


吉田棒一『犬ウォーターメロンシュガー』を読んだ


犬ウォーターメロンシュガー』 吉田 棒一著


かなり前からBCCKSでエッセイというかなんというか、ひとことでいうと「テキスト系個人サイトの文章」みたいなのを出版されている吉田棒ーさんの新作。「テキスト系個人サイトの文章」みたいなのが好きな人なら間違いなく楽しめるし、「テキスト系個人サイトの文章」みたいなのが好きな人はもう結構な年なんだからこういうものにちゃんと324円払ってほしい。

僕はBCCKSの電子版で読んだけどまったくもって頭から順番に読んだりするタイプの文章ではないので紙の本でトイレとかに置いて雑に読み始めて適当に閉じるくらいのほうがいい。紙本はこちらのその名もチンポシステムズ出版で1200円で買える。


高野秀行×清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』を読んだ

集英社インターナショナル 公式サイト


この本どういうきっかけで買ったんだか完全に忘れたけど(タイトルがちょっとおもしろかったからかな)、あんまり読まないジャンル(歴史&文化人類学)の雑学本でなかなか楽しく読めた。日本の中古車の話(日本の中古車が世界に輸出されて使われているのは、性能に全く問題ないのに新車でないだけで異常に値が下がる日本人の文化的気質に起因しているという話)がおもしろかった。


青山拓央『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』を読んだ

幸福はなぜ哲学の問題になるのか - 太田出版


『タイムトラベルの哲学』の青山拓央さんによる、幸福の哲学をまとめた本。時間論が専門の青山さんがなぜ「幸福」なんだろうと思いつつ読み始めたんだけど、そうではなかった。われわれが素朴に感じている時間の流れとその中にある「今」、そして「今のようでなかったかもしれない世界(可能世界)」というものと「幸福」がとても密接な関係にあり、われわれの生の実感につながる「幸福/不幸」の見積もりが、「この世界が今のこのようでなかったら」という現実としては合理性をもたない想定、つまり錯覚によってなされているというのが『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』という書名につながる本書の世界観で、まさに青山さんの問題意識ど真ん中なんだろうな。近く刊行されるという『時間と自由意志』を補うように生まれた本という側面もあるそう。

でも一方ではこの本はわれわれが主観的に感じる幸福のありかたについての様々な論点をやさしい語り口で腑分けしていく幸福に関するエッセイのようにも読める本になっていて、途中はさまれる子供に向けた幸福を考えるための文章(『付録:小さなこどもたちに』)も実によくて、装丁も含めて「幸福の匂い(朝食のパンの話が出てくるからかなんとなく軽いパンっぽい感じ?)」のするような滋味深い本だった。



川端裕人『The S.O.U.P.』を読んだ

The S.O.U.P. (角川文庫)
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川端 裕人
角川書店
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とある事情で預かっていて、帰省の移動中に読む小説を探していて手に取ったので読んだ。2001年発表の小説だそうだけど、SF描写も作品としてもあまり古くさく感じず面白く読んだ。対立する3つの要素というのがモチーフとして作品のなかで何度も語られ、テーマの配置としてもいくつも重ねられていて見事なんだけど、僕には「ハッカー文化 - SF - ファンタジー」の三角形のバランスが新鮮で面白く感じた。インターネットワームと指輪物語における竜である長虫(ワーム)が重ねてあり、もともとインターネットワームが指輪物語由来なのかなと思ったんだけどそういわけではないみたい(むしろSF由来らしい)。

オンラインRPGの描写は2000年前後のEverQuestとかを参考にその延長上に考えられる未来のファンタジーRPGを設定して(というか具体的にはどういうインターフェイスなのかをごまかしつつ)書いたんだろうけど、2017年に読むとわりといまどきのVRゲームの描写とほとんど変わらないように読めてそこも興味深かった。


戸田誠二『スキエンティア』を読んだ

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SF仕事がらみで読んだ。とてもよかった。スキエンティアはラテン語“scientia”でscienceの語源か。

どの話もよかったけどやっぱり第1話「ボディレンタル」かな。ありがちな話だなとも思うけどぐっときて涙ぐんでしまった。もはや「若者を導いてみらいを託す話にぐっとくる年代」ということを認めざるを得ないな…