スティーブン・レビー『ハッカーズ』を読んだ

ハッカーズ
ハッカーズ
posted with amazlet at 17.12.25
スティーブン・レビー 松田 信子 古橋 芳恵
工学社
売り上げランキング: 198,553

読んだことなかったんだけど、絶版になってないのを知ったので買って読んだ。

6刷から書体が細い

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評判通りたいへんおもしろかった。オリジナルコンピュータハッカーの誕生譚、ハッカーが自分たちにとっての自由——自分が占有できるコンピュータ!——を手に入れるために広げた「ホームブリューコンピュータ」というムーブメントとそこから立ち上がったパーソナルコンピュータの創世記でありつつ、コンピュータゲームビジネス勃興記の狂瀾を生々しく記録した本でもある。第三部のシエラオンライン社をめぐるドキュメントは、いわゆる「ヤングファミリー興亡史もの」の色合いが濃くてぐっときた。それにしても、「シエラオンライン」ってゲーム会社の名前は昔からパソコン雑誌で聞き覚えがあったけど、その「シエラ」がこの今文章書いてるコンピュータのOSの名前と同じくシエラネバダ山脈に由来していたのにとんと気づいてなかった。

あとこの本の記述だとハッカーが性向として持つ脱社会性とヒッピーカルチャーは近接する部分はありつつもわりと明確に線を引いているのが興味深いなと思った。


佐藤雅彦/菅俊一/高橋秀明『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』を読んだ

『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』 — 佐藤 雅彦 作 菅 俊一 作 高橋 秀明 画 — マガジンハウスの本


行動経済学の知見のおもしろさを伝えるのに「トンチの利いた痛快まんが」というフォーマットを使うという「ザ・取り合わせの妙」という本。こないだTRANSBOOKSの打ち上げ飲み会の席で菅さんとエクリの、っていうかここでは学習まんが アフォーダンスの大林さんがいて話をする機会があり、『ヘンテコノミクス』とか『学習まんが アフォーダンス』みたいに、安易な企画や単なるパロディではなく、難しいことがらを漫画というメディアの特性をフル活用して伝えるという、新しい「学習まんが」というものが他にも生まれうるんじゃないかという話がちょっとできてうれしかったんだけど、その意味でも『ヘンテコノミクス』はいい本でこういう本がもっとあったらしいなーと思う。

ただちょっと、これは作画の高橋秀明さんが漫画家ではないからという事情が大きいせいもあるだろうけど、『ヘンテコノミクス』のまんがはちょっとまんが自体としての魅力には欠けている部分があって(いい感じの話もあって、代表制ヒューリスティックを説明する『「         」の巻』とかは人を食った内容とトーンがマッチしてた気がする)、別のまんが家が描いてたらどうなってたのかなーと感じなくもなかった。

でいうと、まんがとはあまり接点のない分野の世界をまんがを使って身近なものとして伝えるというコンセプトも、たまたまだろうけど判型も似ている高野文子『ドミトリーともきんす』と比べて考えてみるとおもしろいかもと思った。


青柳菜摘『黒い土の時間』を読んだ

青柳菜摘「黒い土の時間」 | 黒い土の時間


装丁国語の教科書っぽいなと思ってたのでランドセルの上で撮ってみた

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箱を開いた。ゆっくり箱を開いた。

家の中で飛び立つと大変なのでトイレの蓋を閉めドアを閉め、トイレをテーブル代わりにして箱を開いた。ゆっくり箱を開いた。小皿の上の半分に切られた巨峰の匂いがさっきまで篭もっていた匂いを放つ。日本酒を垂らしてあるからか熟した匂いが立ち込める。体を少し右に傾け、黒く墨を流したような、光を受けると青みがかる翅を下に向けている。裏側の少し地味な模様が見えた。

という冒頭ですでにしてふくらんだ僕の期待はすこしも裏切られず、最後まで興奮しながら読み終えた。ほんとうに素晴らしい。この小説にふれて息を吹き返した気持ちや感覚を自分の観察箱の黒い土に埋めておこうと思った。

なので「これは…」と思ったひとは間違ってないのでさっさと上のリンクから注文して読もう。あ、王子にあるコ本やという本屋でも売っているそう。


フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んだ

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? | 種類,ハヤカワ文庫SF | ハヤカワ・オンライン


ブレードランナー2049観たタイミングで読んだことなかった原作を読んだ。面白かったなー。わりとディックの作品は肌に合うのかもしれない。

映画と原作はほどんど無関係だとは聞いていたけど、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」というフレーズそのものにもポップアイコンとして触れてきた感があったので、原作を読んでようやくそのタイトル問いかけの切実さというか、反語としての指示内容が理解できた。


読書猿『アイデア大全』を読んだ

『アイデア大全』


もともとは電子書籍版(Kindle/KOBO)の出来がよいという話をきいたのでKindleで買ってみて読んだんだけど、すごい面白かった。古今東西の発想法を紹介しつつ、それら発想法のルーツや他の発想法、学問、人文知とのつながりを探ること、つまり発想法的な手法で発想法そのものについての視点を変え、視野をひろげ、新たな発想へと導くための本になっている。読書猿さんのblogでの解説も素晴らしかった。

電子書籍としての出来のほうは、紙本の黄色い塊のような装丁を再現しようとたしかに頑張ってる…のは確かだけどこの方向(Kindleでできる限り凝る)はやっぱり限界あるなーと思った。


三宅隆太『スクリプトドクターのプレゼンテーション術』を読んだ

商品一覧:スクリプトドクターのプレゼンテーション術


奥さん(三宅隆太さんのファン)が買って貸してくれたのでさくっと読んだ。ここまで露骨に「タマフルファン向けの本」だと思わなかったなー。逆に言うと「タマフルのファンが買う」というだけで出版が成立するくらいの厚い支持層があるというのはすごい。この本の理論でいうところの「転調」がある質疑の部分とあとがきがよかった。


山本裕介・今井勝信『IntelliJ IDEAハンズオン──基本操作からプロジェクト管理までマスター』を読んだ

IntelliJ IDEAハンズオン ――基本操作からプロジェクト管理までマスター | Gihyo Digital Publishing … 技術評論社の電子書籍


IntelliJ IDEAの本が出て電子書籍がある、というような話がTwitterで流れてきて、お、そんなのあるのかと思って調べてみたら、たしかにKindleにはあるんだけどhontoでは売ってない。あららと思いきや、あらためて考えたら技術評論社は直販の電子書籍サイト「Gihyo Digital Publishing」を持っていて、ここで買ったほうがpdfに加えてリフロー型のEPUB版もダウンロードできる(Kindle/KOBOはいわゆる固定EPUB(画像)型の電子書籍のみ)のでそっちで買った。まあKindleとかの電子ストアで買ったほうが値引きがあるとかポイントがつくとかはあるんだろうけど、スマートデバイスで読むよりはPCで開いて検索できたほうがいい技術書については書籍データがダウンロードできる直販で買ったほうがよいと思う。

あと、技評のリフローEPUBってすごいよくできてるんだよね。いわゆる横書きの技術書フォーマットはCSSのスタイリングと親和性が高いからというのもあるんだろうけど、ショートカットキーの囲みとかも再現されてて紙の本と比べても遜色ない。もちろん検索もできるし(他方こだわって作られているせいでこのリフローEPUBを他の電子書籍ストアには出せないんだと思う。固定EPUBの本を電子取次で配信せずKindle/KOBOにしか出してないのがなんでかはわからないけど、基本直販にしたいけどKindleは無視できないというとこなのかな)

ちなみに本の中身のほうはほぼ使っている機能の紹介でそれほど役に立つものではなかったけど、条件式のあとに拡張子のようにキーワードを書くと(arg1>arg2.ifのように)構文に展開されるPostfix completionという機能は知らなくてへー!と思った。


Akihiko Taniguchi/Chie Taniguchi『nothing happens』


TRANS BOOKSで買った谷口暁彦さん、タニグチチエさんによる写真集『nothing happens』、物理写真集やポスターも素敵なんだけど、付録2である『nothing happens』アプリ版が予想以上におもしろかったというか、何か別のものの原型のように思えた。

『nothing happens』は、谷口さんの先日まで展示されていた新作『何も起きない』からいくつかのシーンを切り取って写真集にまとめたもので、それを買うとついてくるUSBメモリに納められているアプリ版『nothing happens』はその電子版…といいつつpdfとかではなくて「写真集を再現した3Dモデルデータをリアルタイムレンダリングで読めるアプリケーション(Unity製)」になっている。

そこまでは知っていてなるほどおもしろいなと思って買ったんだけど、実際に起動してみて驚いたのは(実際はよく読むと上のツイートにも書いてあるんだけど)この「写真集を再現した3Dモデルデータ」が配置されているのは、この写真集の題材である『何も起きない』という作品の舞台である「あの部屋(の3Dモデルデータ)」なのであり、つまりこれは、作品の一部を編集した本がその作品の一部であることが、現実として目の前で体験できるアプリケーションなのだった(起動したままにしておくとアプリ内で時間が経過して日が暮れたり昇ったりもする)。何も起きていないかわりに大変なことになっていた。

あと、今回このアプリを体験してみて、「読書環境も含めて提供されるVRによる未来の本」というものが他にもあり得るんじゃないかと感じた。本1冊のために専用のシーンを作り込んだりするのはオーバースペックだろうなとは思いつつ、なんとなく「VR読書」みたいな話には鼻白むものを感じていたなかで今回の体験は新鮮だった。「VR『はてしない物語』」とかあったら読んでみたいよね。

ちなみにアプリ版『nothing happens』は書いてないけどCmd/Ctrl+qで終了だそうです(ESCキーは効かない)。

Trans Booksで買った谷口さんの「nothing happens」

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nothing happens

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TRANS BOOKSに参加した

TRANS BOOKS | 2017年11月4日(土)、5日(日) 11:00 - 18:30 @ TAM コワーキング 神保町


メディアの横断をテーマにしたブックフェアというかポップアップストアというかグループ展というかのイベント『TRANS BOOKS』が11月4日と5日に行われていて、BCCKSも参加していた。実行委員から「BCCKSは本が様々なメディアを横断するサービスとしてテーマに合致すると思う」というオファーをいただいてなるほどと思ったものの、BCCKSはあくまで出版プラットフォームなので「作家」として何かするのも変な話で、BCCKSからはじゃあむしろ『TRANS BOOKS』のドキュメント本をリアルタイムで制作、出版するとかかな? とかアイデアを出していた。ちなみにこの「アートイベントに『アートイベントをリアルタイムにドキュメントした本』という作品で参加する」というのは以前『トランスメディアーレ2014』に参加したときにやってたスタイル(このときのは結果的には松本弦人の驚異的な作業量からなる松本弦人の作品ですが)。


Buch—transmediale』 tmbccks著

いま見てもすごいなこの本

今回はイベント的にライブドキュメントを残すべきものでもないのがわかったので、ディスカッションのすえプラットフォームらしく「BCCKSで出版された本のQRコードを使ったポスターを作り、QRコードリーダーを使った偶然的な本との出会いの場をつくる」という企画になった。さらに最終的には単なるポスターではなく「BCCKSの本のレイアウトに、文字の代わりにBCCKSの本のQRコードが組まれている」というポスターを作ることになり、それを可能にするBCCKS側の実験的機能追加もしつつ形にした。このへんは今後に生かしたい。

というわけでどういうイベントになるのかよくわからないまま当日を迎え、ちょっとだけ会場にもおじゃましてたけど、客としてはものすごくおもしろい「本屋」になっていたと思う。「メディアの横断」や「メディアとしての本を更新する本」に僕が関心があるからというのもある(し、そもそも興味のある作家が参加してたことも大きい)けど、ひさしぶりに「これもこれもこれも欲しい! 全部買いたい!」という気分になった。 いわゆる長机で出展者が売り子をする即売会スタイルじゃなかったのもよかった(それだったら絶対今回みたいにたくさん買う気にならなかったと思う)。単価が高めなのもよかったというか、高くても「本」だとがばがば買ってしまうというあのマジカルなやつが発動してた。運営のみなさまにはぜひとも次回の開催を期待したい。


ルチアーノ・フロリディ『第四の革命 情報圏(インフォスフィア)が世界をつくりかえる』を読んだ

第四の革命


弊社代表石橋の推し哲学者ルチアーノ・フロリディの単著としては初の邦訳(でいいのかな?)。フロリディさんは「有形無形問わずあらゆるものは情報であり、情報の『よさ』を中心とする情報倫理を構築すべき」という非常にラジカルな世界観を提唱する情報哲学者なんだそうだけど(参考:情報/ITアーキテクトのための「使える!フロリディ情報哲学」)『第四の革命』はその情報哲学の入門編ともいえる内容で、ドライブ感ある文体や独特の(センスオブワンダーを感じる)造語が読みやすく訳されていてたいへん楽しめた。

この本のいう「第四の革命」とは、コペルニクス、ダーウィン、フロイトに次ぐ第四の脱人間中心パラダイム(の転換期)として、昨今のITC技術による情報爆発とその自律エージェント化を位置づけるもの。人間環境のデフォルトと化した人工物を「新しい自然」と見なしたり、IoTやスマートエージェント技術の描く未来像に人間中心主義の終わりを見いだすような発想はとりわけ新しいというわけでもないかなと思いながら読んでいたんだけど、人間を情報エージェントととらえたとき、これまで「人間性」を基礎づけてきたシステム(たとえばプライバシー、たとえば政治)がどのような物理的制約のもとで成り立ってきたのか、そしてすでにわれわれが手にしている高度に発展し民主化されたICTが、そうした「人間性」をどのように作り替えているのか、つまり、すでに情報エージェントであるわれわれが、いま「人間性」とは実際には何だと思っているのかをここまで詳細に網羅的に分析していると説得力が違うなと思う。そしてやっぱり数々繰り出されるキャッチーな造語が「第四の革命」感あって最高。inforg(情報有機体)! e-mortal(e-不死)! 情報摩擦! 政治的アポトーシス!

「世界の見方を変える」という意味ではまさしく哲学書なんだろうけど、いわゆる「哲学書」的な語彙は少なく前提知識も不用だし、むしろIT技術書のようなプラクティカルなセンスにあふれている(「社会契約説では人は法的にオプトアウト」みたいなパンチラインがぼんぼん出てくる)のでまあ分厚いけど恐れずにノリでどんどん読んで情報圏インフォスフィアに取り込んで作り替えていくといいと思う。

石橋さんとオーバーキャスト大林さんのフロリディ対談は、あんまり本書の内容に触れてなくて残念だったな。この本の内容にこだわった読書会的なやつ希望。