千葉雅也『別のしかたで ツイッター哲学』を読んだ

別のしかたで :千葉 雅也|河出書房新社


幸福はなぜ哲学の問題になるのか』のなかでこの本からファミコンのゲーム(に代表される、ハードスペックが極めて制限されていたころのゲーム)がもつ世界の緊張感についての話が引用されていて、どういう文脈なのかなと思って読んだ。ツイートをまとめた本なのね。

該当ツイートみつけた。

すぐ読み終わったけど、おもしろかったしツイートをまとめた本の本文の組み方の例としても参考になった。筒井康隆のエッセイとか日記とかを思い出して、そういう意味では文庫で読めると「らしい」感じの内容だったかな。


ゲー夢エリア51『ギャラクシアン創世記 ‐澤野和則 伝‐』を読んだ

(同人誌)ギャラクシアン創世記 ‐澤野和則 伝‐ [ゲーム探偵団(ゲームミュージック館)]


遠山茂樹作品集3部作につづく、ギャラクシアン、ポールポジションの企画者澤野和則さんのインタビュー同人誌。僕は恥ずかしながら澤野さんがナムコのビデオゲーム最初期作品を多く企画していたことを認識していなかったので、それら作品がエレメカ時代に培われた映像技術とミニマムな娯楽の要素の融合というコンセプトでそれこそリッジレーサーあたりまで一貫していると語られていたのが新鮮でおもしろかった。澤野さんが語るような短時間でプレイヤーを最大限楽しませることを至上とする直球ストレートの企画(『ポールポジション』の企画書に「(コンセプト通りの作品になれば)コースは直線であっても十分ゲームとして成立する」と名言されていたのが印象的だった)、80sデザインを見事にキャッチアップしていた当時のナムコデザイン課の仕事の両輪が80年代ナムコを支えていたんだな。


菅俊一『観察の練習』を読んだ

『観察の練習』


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買ってあったのをようやく通読した。やっぱ何よりこの造本が素晴らしいの一言。カバーなしで厚めのコーティングがある上製本という仕様(図書館本の感触!)。こんな感じのポケット漢和辞典使ってたな…という感じの判型と表紙や背のデザイン。黒板を思わせる目の粗い黒の遊び紙と学校配布物を思わせる派手な黄色のカラーペーパー(アイデアインクでも思ったけどカラーペーパーを使った本が喚起する抽象的な学校のもの感すごいと思う)。菅さんの観察からなる内容に気づかされることが多いのはもちろんながら、この本の物理的な設計がひとびとのなかに眠る「向学心」を刺激することに成功しているんだと思う。

あとあんまり関係ないけど思ったのは、VOWとか路上観察学会とかもそうなんだけど、「観察の練習」にはコミュニティがあったほうがいいんだよなーということ。いまならtwitterやinstagramのハッシュタグで疑似同期的なコミュニティは作っていけるんだろうけど。


赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』を読んだ

ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム 赤野 工作:書籍 | KADOKAWA [~ https://www.kadokawa.co.jp/product/321702001852/]


カクヨムのサイトに載っているのでどうしても読むことができなくて(カクヨムに限らず横書きスクロール形式の小説読書にどうにも適応できない)、本を買って読んだ。全身をサイバネティクス化して生き延びている22世紀の老ゲームマニアが、21世紀後期のマニアックな低評価ビデオゲームを、90年代〜2000年代初頭の個人サイトでひっそりと更新されていたゲームレビューサイトさながらのゲーマー一人語りとして綴っていく、という体のSF小説。ゲームマニアの内輪受けっぽいネタがゲームマニアの内輪受けっぽい文体で書かれているんだったらやだなーと思いつつ読み始めたんだけど、各回で取り上げられるゲームのアイデアがたいへん気が利いていてとても楽しめた。とはいえ長かったなー。Web小説ベースだとこうなってしまうということかな。

タイ語はなんとかなった

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大澤聡 編著『1990年代論』を読んだ

1990年代論 :大澤 聡|河出書房新社


ある程度見取り図が把握できている第2部の文化パートより、第1部の社会・政治パート、とくに「心理」(松本卓也さん)「宗教」(太田俊寛)の論考が興味深かった。というか、90年代の「心理」と「宗教」がおもしろいものだったということかもしれないな。エッセイ系では五所純子さんのがおもしろかった。

さやわかさんの「排除のゲーム史」もテクノロジーの発展と併走することが当然視されるビデオゲームという文化では、メインストリームから「排除」されることからしか円熟が生まれないという逆説が語られていて納得したけど、90年代ノベルゲームの到達点とFPSによる一人称的な物語の円熟との関係は「ゲームエンジン」がデファクト化したところでの作品性の追求という共通点もあるよなーと思った。


『ゲンロン6 ロシア現代思想 I』を読んだ

ゲンロンショップ / ゲンロン6


年末からちびちび読んで年明けに読み終えた。力の入った特集、小特集に連載論考が偶然なのだろうけど響き合っている(速水健朗『独立国家論』やプラープダー・ユン『新しい目の旅立ち』にユートピアとしての共産主義の影が見えたりとか)ように読めたのがよかった。あと『個人的なハーモニー』の「個人的」ってキーワードはどこかしらロシア的な想像力につながってるのかなーなんてことも思った。

高木刑『ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地』も強烈なヴィジョンを堪能しつつ楽しく読めたけど(頭の中でイメージがDeath Strandingのトレーラーにつながってた)、好みでいうと『カランポーの王は死んだ』のほうが好きだったかな。


平松るい『かど松 2018 特集 いぬ』を読んだ

年賀雑誌かど松2018 特集いぬ | かど松屋さん


判型で意表をつくやつはやってるな

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判型が変わった第4号。ひらまつさんのデザイン&発注スキル向上によるものか異種の用紙をまぜこんだ製本になってたり挟み込みの別冊まんががついてたりとジンっぽさが増している(あと紙質がグラビア誌っぽいからかいままでになく雑誌を読んでる気分になった)いっぽうで(あの唐突な)人物取材/インタビュー記事がなかったのは残念に思った。連載陣では細馬さんのぼんやりエッセイが優勝。

これまでのかど松レビュー


スティーブン・レビー『ハッカーズ』を読んだ

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読んだことなかったんだけど、絶版になってないのを知ったので買って読んだ。

6刷から書体が細い

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評判通りたいへんおもしろかった。オリジナルコンピュータハッカーの誕生譚、ハッカーが自分たちにとっての自由——自分が占有できるコンピュータ!——を手に入れるために広げた「ホームブリューコンピュータ」というムーブメントとそこから立ち上がったパーソナルコンピュータの創世記でありつつ、コンピュータゲームビジネス勃興記の狂瀾を生々しく記録した本でもある。第三部のシエラオンライン社をめぐるドキュメントは、いわゆる「ヤングファミリー興亡史もの」の色合いが濃くてぐっときた。それにしても、「シエラオンライン」ってゲーム会社の名前は昔からパソコン雑誌で聞き覚えがあったけど、その「シエラ」がこの今文章書いてるコンピュータのOSの名前と同じくシエラネバダ山脈に由来していたのにとんと気づいてなかった。

あとこの本の記述だとハッカーが性向として持つ脱社会性とヒッピーカルチャーは近接する部分はありつつもわりと明確に線を引いているのが興味深いなと思った。


佐藤雅彦/菅俊一/高橋秀明『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』を読んだ

『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』 — 佐藤 雅彦 作 菅 俊一 作 高橋 秀明 画 — マガジンハウスの本


行動経済学の知見のおもしろさを伝えるのに「トンチの利いた痛快まんが」というフォーマットを使うという「ザ・取り合わせの妙」という本。こないだTRANSBOOKSの打ち上げ飲み会の席で菅さんとエクリの、っていうかここでは学習まんが アフォーダンスの大林さんがいて話をする機会があり、『ヘンテコノミクス』とか『学習まんが アフォーダンス』みたいに、安易な企画や単なるパロディではなく、難しいことがらを漫画というメディアの特性をフル活用して伝えるという、新しい「学習まんが」というものが他にも生まれうるんじゃないかという話がちょっとできてうれしかったんだけど、その意味でも『ヘンテコノミクス』はいい本でこういう本がもっとあったらしいなーと思う。

ただちょっと、これは作画の高橋秀明さんが漫画家ではないからという事情が大きいせいもあるだろうけど、『ヘンテコノミクス』のまんがはちょっとまんが自体としての魅力には欠けている部分があって(いい感じの話もあって、代表制ヒューリスティックを説明する『「         」の巻』とかは人を食った内容とトーンがマッチしてた気がする)、別のまんが家が描いてたらどうなってたのかなーと感じなくもなかった。

でいうと、まんがとはあまり接点のない分野の世界をまんがを使って身近なものとして伝えるというコンセプトも、たまたまだろうけど判型も似ている高野文子『ドミトリーともきんす』と比べて考えてみるとおもしろいかもと思った。


青柳菜摘『黒い土の時間』を読んだ

青柳菜摘「黒い土の時間」 | 黒い土の時間


装丁国語の教科書っぽいなと思ってたのでランドセルの上で撮ってみた

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箱を開いた。ゆっくり箱を開いた。

家の中で飛び立つと大変なのでトイレの蓋を閉めドアを閉め、トイレをテーブル代わりにして箱を開いた。ゆっくり箱を開いた。小皿の上の半分に切られた巨峰の匂いがさっきまで篭もっていた匂いを放つ。日本酒を垂らしてあるからか熟した匂いが立ち込める。体を少し右に傾け、黒く墨を流したような、光を受けると青みがかる翅を下に向けている。裏側の少し地味な模様が見えた。

という冒頭ですでにしてふくらんだ僕の期待はすこしも裏切られず、最後まで興奮しながら読み終えた。ほんとうに素晴らしい。この小説にふれて息を吹き返した気持ちや感覚を自分の観察箱の黒い土に埋めておこうと思った。

なので「これは…」と思ったひとは間違ってないのでさっさと上のリンクから注文して読もう。あ、王子にあるコ本やという本屋でも売っているそう。