田中治久(hally)『チップチューンのすべてーーゲーム機から生まれた新しい音楽』を読んだ

チップチューンのすべて All About Chiptuneーーゲーム機から生まれた新しい音楽 | アイデア - 世界のデザイン誌


素晴らしい本だった。『現代ゲーム全史』を読んだとき、コンピュータと音の関わりやゲーム音楽についての言及が妙に少ないなと思ってたんだけど、後にこの本が控えているのがわかっていたからなのか…と思ってしまった(違うかな?)。

コンピュータから再生される「電子音」の誕生と、その発展としての音源チップ、つまり「楽器」ではなく「コンピュータの一部としての音源」が、どのように発展し、どういう形で人々の耳に触れ、そして誰がそこに、のちに「チップチューン」と呼ばれることになる固有の表現を見いだしていったのか。それを膨大な資料からの丹念な研究によって明らかにする、コンピュータ音楽史研究家としてのhallyさんの集大成のような本。これを2017年に日本語で読めるのを感謝したいとしか言いようがない。

僕はこの本の区切りでいうと、国内の(商業)ゲーム音楽隆盛期から国内パソコンでのチップチューン的な価値観の断絶期(第2章 チップチューンの成立 II 国内編)で知識が止まっていたので(恥ずかしながらhallyさんの活動は知りながらもVORCで情報を得ることをしていなかった)、SIDチップとロブ・ハバードの仕事を中心とした海外でのチップ音楽の価値観やトラッカー音楽とデモシーンを通じたチップチューンの胎動期についてはとても多くのことが知れたし、その散り散りに存在したコミュニティーが、他ならぬインターネットとハードウェア・エミュレーションという真にコンピュータ的な技術によってその障壁が崩され、「チップチューン」というひとつのシーンが大きく立ち上がったのだとする記述は、hallyさんの筆の熱もありとても感動的に読んだ。

インターネットとサウンド・エミュレーションの普及がある程度進んだ段階で、人々は気付き始める。言語が違っても、使用機種が違っても、音楽の趣味は共有できるかもしれないと。この種の音楽が好きな人々は、世界中にいるかもしれないと。PSGやSIDといった特定のデバイス名だけでは言い表せない、音源チップ「全体」を包含する、より大きな世界があるかもしれないと。隔てられた世界が繋がり、ひとつのシーンを形成するに至ったとき、今日的な意味での「チップチューン」、すなわちトラッカー音楽に限定されない、音源チップの単純波形に由来するすべてのサウンドを包含する「チップチューン」の時代が始まる。

『チップチューンのすべて』 - 第3章 IV “モダン・チップチューン” 前書きより

注釈に資料URLがたくさんあって、一部歴史的音源の視聴リンクなんかもあるのでぜひどこかでクリックしたいと思いリンク集を探したんだけどまだ作られていないようだったので、ちくちく入力して勝手リンク集をつくった。注釈のほかディスクガイド・アーティストのアルバム情報ないしbandcampへのリンクや(リンク先が雑なのであとで修正したい)、原著中で代表的に扱われているゲームや楽曲、デモが現時点で見られるyoutubeリンクなんかもざっくり入れてあるのでこれから読まれるかたは傍らでリンクを開いたりするとよいんではないかと。