波野發作『我が輩は本である』を読んだ


我輩は本である 〜白紙が紙くずになるまで〜』 波野發作著


ある至極なんでもない本 —— どのくらいなんでもないかというと、本命(AV女優によるセックス相談本)の企画が飛んで押し出しで急遽企画が通った「遺言書の書き方」についての実用書 —— の企画から執筆、編集、デザイン、印刷製本流通を経て古紙(!)として回収されるまで、つまり書籍のゆりかごから墓場までを、いわゆる「我が輩は{something}である」スタイルで描ききった小説。

書き出しが「我が輩は…」から始まる小説なんかもう読みたくないよという方もいるかもしれないけど、これは出落ちのパロディにとどまらない作品なのでぜひだまされたと思ってつきあってみてほしい。本を作り届けることに関わりのある人ならもれなく面白い(そしてツラさに共感できる)と思うし、あるいはたとえばSHIROBAKOみたいな(ややブラック)お仕事群像劇としても楽しめるはず。

世の中の本が「我が輩」として語り出せば、この小説とおおむね同じような出生にまつわる紆余曲折とその生涯の運命を持っているんだろう。でも波野發作さんが電子書籍として個人出版しているこの本『我輩は本である』自身は、白紙だったこともなく、その制作に(おそらく)多くの人が携わることもなく、また紙くずになることもない。本の作り手としてさまざまな立場で関わってきたという波野さんによる、「かつてあった本」へのレクイエムとしても響くなと思った。