さやわか『文学の読み方』を読んだ

[新刊案内] 2016.09.12 | 文学の読み方 | 星海社


さくっと読み終えた。「文学とは、人の心を描くものである」「文学とは、ありのままの現実を描くものである」と定義された坪内逍遥『小説神髄』(1885)以来、出版文化の隆盛とともに権威化した日本文学の内実のあいまいさと、実際のところは時流や業界の要請で成り立っているにすぎない制度としての文学賞の歴史をたどり、日本の近代化の力みが呼び込んだその定義にある錯覚、文学では「人の心」や「現実」を描くことができるのであり、それができていなければ文学ではないという循環論法を棄てて、「いまここにある文学」としての村上春樹やライトノベルやゲーム的リアリズム小説を含めたすべての日本文学をとらえなおす、それが「文学の読み方」である、という本だった。

さやわかさんはツイートだとかゲンロンカフェでのトークのなかで、映画版『この世界の片隅に』の評価のされかたについて何度も異議を唱えているんだけど、それもこの本で言うところの「フィクションがありのままの現実を描くことができる」という錯覚についての自覚を欠いていることについての指摘なんだろうな。『この世界〜』については原作がその限界の認識そのものから出発していることをスポイルしているともとれるのが問題なんだろう。