初期アニメーションの「声」を聴く


『アニメーションの表現史」と銘打たれた本書は、20世紀初頭に誕生したアニメーション映画が、作画や音響の技術革新を経て商業化された勃興期においてどのような表現を獲得してきたのかを扱う論考集だ。といっても、アニメーション映画の通史を追うような内容ではない。むしろ、アニメーションの歴史のような概観ではかいつままれてしまうような、ごく最初期のアニメーション映画の魅力を知るためには、アニメーション以外の歴史を知る必要があるのだとこの本は言う。

わたしたちは古い技術や文化を、しばしば稚拙なもの、後の発達によってとうに乗り越えてしまったものとして捉えてしまう癖がある。もしこの『愉快な百面相』もそうした稚拙な技術によっているただの歴史的遺物に過ぎないのなら、わたしたちは右にあげたささいな疑問に対して、単純に技術や文化や配慮の欠如によって答えることができるはずである。
だが、はたして、それほど簡単な問題だろうか。答えは意外に長くなる。

細馬宏通 - ミッキーはなぜ口笛を吹くのか: アニメーションの表現史

本書に取り上げられるアニメーション映画のほとんどは、いまやアーカイブサイトやYouTubeなどでたやすく目にすることができる。本書はそれらの作品を実際に鑑賞しながら、その「現在の眼からは退屈な」作品を何度も観ながら読み進めるといい。作品のひとつひとつのディテールをなぞり、「なぜこの表現が選ばれたのか?」を問い直すなかで、アニメーションという雄弁な表現形式のそばにもう一つの雄弁な文化があったことが示されていく。一見緩慢で稚拙な誕生期のアニメーションに、フライシャー兄弟のロトスコープに、『蒸気船ウィリー』に、MGMアニメーションの音楽やルーニー・トゥーンズの饒舌に魂を吹き込んだのは、他ならぬ見世物小屋のヴォードヴィリアンやパフォーマーたちの手業であり、踊りであり、声である。

という、作品の線と声をたどる論考そのものに、自身が演奏家・ヴォーカリストであり一人語りの名手であるところの細馬宏通akaかえるさんの「語り」が感じられるところも本書の魅力ですね。